LGBT

わが子がLGBTだと知ったらどうするか 地方で苦しむ性的マイノリティの子どもたち

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2017年6月6日 11時30分 配信
引用元:AERA dot.

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとってLGBT。
性的マイノリティーを表すために生まれ、定着しつつある言葉だ。
たしかに一定の理解は進んだ。
だが、LGBTとひとくくりにすることで、塗りつぶされてしまった「個」や思いがあるのではないか。
性的マジョリティー側は「わかったような気持ち」になっているだけではないのか。
AERA6月12号の特集は「LGBTフレンドリーという幻想」。
虹色の輝きの影で見落とされがちな、LGBTの現実に迫る。

LGBTに対する差別や偏見は、とくに地方で根深い。
根底にあるのは教育だ。授業でLGBTを教える小学校も出てきた。

******
ずっと、着ぐるみを着ているような気分です

愛知県に暮らす大学2年のりぃなさん(19)は、静かな口調でこう話した。

女の子が好きかも。
そう思い始めたのは、小学校高学年くらい。
小学6年の時、同じ学校の女の子に一目ぼれした。

女性なのか男性なのかわからない、不思議な自分。
人にどう思われるのか、怖かった。
親にも友だちにも言えず苦しんだ。
自己肯定感を持てなかった。

大人になるとそのうち治るだろうと思ったが、高校になっても好きになるのは女性。
私はみんなと違うんだ。
一人で悩み、生きているのがつらくなった。
通学途中、電車のホームに立つと、そのまま線路に引き込まれそうになった。

昨春、大学生になった。
大学生のLGBT当事者が集まるインカレサークルに参加したり、昨年10月にはLGBTの居場所をつくろうと「名古屋あおぞら部」を立ち上げ、活動する。
ブログでも思いを発信する。

今は超元気です

と笑顔を見せる。

それでも、顔と実名は決して出せないという。
大学に入学してしばらく経ったころ、仲がよくなった同級生の女子たちと地元トークで盛り上がっていると、一人の子が言った。

中学の時に女性同士のカップルがいたんだけど、キモイよね

その場にいた全員が笑った。

悪気があって言ったのではないと分かっている。
でも、人の目が怖くなり、レズビアンであることは「言えない」と思った。

カミングアウトできないことによる心の壁は、望まない着ぐるみを着ているようだと話す。

●「この辺にはいない」

ここ数年で、日本でもLGBTという言葉が一気に広がり定着した。
しかし、LGBTに対する差別や偏見は社会に根強い。
とくに地方では、状況はさらに厳しい。
「評判や噂」にさらされ、「家」があったとしてもいづらい。
最も重要なはずの親子や家族間での相互理解が、高いハードルになっているのだ。

同性愛者は、都会にはいるけどこの辺にはいないわ

バイセクシュアルのまいさん(31)は2年前、東海地方に暮らす母親(56)にカミングアウトすると、諭すようにそう言われた。

いるわよ──
まいさんは、この言葉が喉元まで出かかったが、黙って気持ちを抑えた。

保守的な地域だ。
両親は娘の気持ちを理解しようとせず、世間体だけを気にした。
父親(61)は、まいさんがバイセクシュアルであると聞くと言った。

墓場まで持っていく

今秋、まいさんはパートナー(28)と結婚式を挙げる予定だ。
けれど、両親から式には出ないと言われている。
母親は告げた。

式であなたの隣に女性がいる状態を見たくないの

まいさんは言う。

地方では同性カップルは異質なものという刷り込みが強いと実感します。私たち2人の未来に、親と一緒に笑い合っている姿は想像できません

静岡県で暮らしてきたレズビアンの若林果歩さん(24)は、地方での生きづらさをこう話す。

小さい町だと、目立つことをすると叩かれるんです

レズビアンと自覚したのは高校1年の時。
地元をLGBTが住みやすい街に変えたいと思い、20歳の時から顔も実名も出し活動をしてきた。
やがてテレビなどでも紹介されるようになると、同じ地元のレズビアンからネットでディスられるようになった。

生意気」「何、あいつ」……。

そんな狭い世界が嫌になり昨年、東京に引っ越した。

地方にはLGBTはいないって思われています」(若林さん)

こうしたLGBTへの偏見や差別は、貧困に直結しやすいといわれている。

●居場所がなく孤立

LGBT向けコミュニティースペースを運営する「LOUD」(東京都中野区)代表の大江千束さんは言う。

異端視され、社会から容認されないとメンタリティーの脆弱性につながります。メンタルの問題を抱えると勉強や仕事がうまくいかなくなる。そうなると負のスパイラルに陥り、貧困になるリスクが高くなります

女性の場合はより深刻だ。
女性は非正規が多く、収入も低い。
レズビアンカップルの場合、どちらかが失職すると一気に生活困窮に陥る。
さらに地方では、より貧困になりやすい傾向があると、大江さんは指摘する。

仮に、LGBTだと開示をしても地方は周囲からの理解を得られない場合も多く、そうなると地元で仕事に就くことも難しい。その結果、生活困窮に結びつき、コミュニティーなど居場所がない場合は孤立していくという悪循環が想定されます

関西の地方都市に住むトランスジェンダーのシンジさん(39)は、そんな一人。

女性として生まれたが、今は「男」として生活する。

正社員で働いていた20代半ば、3歳年上の同僚の女性に告白したところ、職場内で無視され始めた。
やがて、「元女」だったことをネタにされるように。
耐えかねて、退職。
新しい職場でもまた触れられるのかと思うと、就職するのが怖くなった。
プライベートなことを聞かれない派遣社員の道を選び、派遣の仕事を転々とするようになった。

今は年収200万円程度で、家賃月4万円のアパートに一人暮らし。
体調を壊しても医療費を出す余裕がなく、受診していないという。
シンジさんは言う。

一人ひとり生き方は違うのに、型にはまった人の生き方しか守られていない気がします

差別が貧困を生む“負の連鎖”。
背景にあるのは何か。

レズビアンで、慶應義塾大学大学院博士課程でジェンダー、セクシュアリティーを研究する中村香住さん(26)は、根底には「教育」があると指摘する。

●早すぎることはない

高校1年の時、中村さんは恋愛感情を持ったクラスメートの女性に告白すると、「絶交」を告げられた。
好きとか嫌いではなく絶交にまで至ったのは、この女性は同性愛をどこかで「気持ち悪い」と考えていたからではないか。
また、カミングアウトした女性から「私のことは対象にしないでよね」と言われ、傷つくこともあった。
こうした、LGBTに関して否定的な発言をする人がいるのは、教育で適切な知識を身につけていないことも理由の一つだろうという。

小学生でLGBTを教えるのは早すぎるという議論があります。セックスに関する話は早い遅いはあるかもしれないけど、少なくともセクシュアリティーについては、教えるのに早すぎるということはないと思います。幼稚園生でも初恋はあります」(中村さん)

教員や生徒、保護者などに出張授業を行うNPO法人「ASTA」(名古屋市)の共同代表理事で、愛知教育大学4年の久保勝さん(22)はこう話す。

大学の教員養成課程でジェンダーやセクシュアリティーを扱う授業はなく、『LGBT』の『L』の字も習わない。教員がLGBTのことを知らないのは、ある意味、当たり前です

5月、ASTAは愛知県内の小中学校の教員51人にLGBTに関するアンケートを実施。
LGBTを聞いたことが「ある」と答えた教員は、半数以下の19人だった。

久保さんは、「アライ(ALLY)」と呼ばれるLGBTの支援者だ。
大学に入って中学時代の同級生がゲイだと知った。
当時、彼が周囲から「ホモ」とからかわれているのを見ても、何も言えなかった自分に無力感を覚えていた。
教員養成の大学に進み、その原因が教職課程の「穴」にあることに気がついた。

●変わる教育の現場

LGBTは「いない」のではなく「見えない」だけ。見えなくしているのは教育だ、と。

昨年、学内にLGBTを支援する学生団体「BALLoon」を立ち上げ、広く外に向けLGBTの発信を行うため今年、NPOを設立。
久保さんは言う。

教育は循環します。教えられた子どもは教える側になっていく。LGBTに対する負の循環を断ち切り、社会を変えたい

教育の改革は、現場からも少しずつだが起きている。

LGBTって何だろう?

3月上旬、神奈川県三浦市立初声小学校。
6年生の担任の藤田健太郎教諭(27)は、画用紙に描かれたイラストを手に、100人近い児童を前に問いかけた。

え~、何、何!?

子どもたちは藤田教諭のほうに身を乗り出した。
授業は、同校の及川比呂子養護教諭(57)の企画で実施された。

小学6年生になると性自認が揺らぐ子を、今まで何人も見てきました。自分の心と体に違和感があることはおかしくない、周りに相談してもいいんだと伝えたかった」(及川養護教諭)

授業は45分、道徳の時間に6年生全員を集め行った。
藤田教諭は6年生の担任ら4人とともに授業を実施。
授業の後、子どもたちの意識は変わった。
こんな感想が寄せられた。

LGBTって知らなかった。すごくためになった
二つの性別の違いを知ることができてよかった

授業前までLGBTという言葉を知らなかったという藤田教諭はこう話した。

僕たちも、子どもたちの中にLGBTの子がいるかもしれないという視点を持つことができただけでもよかった。子どもたちが学校で伸び伸びと楽しめる配慮につながります

教育が変われば社会が変わる。社会が変われば、心の壁はいつかきっとなくなる。(編集部・野村昌二)

※AERA 2017年6月12日号

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