体験談

子どもを産めない身体になってこそわかった「親になる」ということ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

2017年8月20日 配信
引用元:現代ビジネス

男性として生まれたものの自らの「性別」に違和感を覚え、同性愛、性同一性障害など、既存のセクシャルマイノリティへ居場所を求めるも適応には至らず、「男性器摘出」という道を選んだ鈴木信平さん。
そんな鈴木さんが、「男であれず、女になれない」性別の隙間から見えた世界について描いていきます。
今回はXジェンダーの立場から「親になる」ということついて大いに語ります。

◆お父さん、お母さん、ありがとう!?

いつからなのだろう?
遺伝子に組み込まれて太古の昔からなのか、フォークソングの全盛期にどこかのモテない歌手が分かったように歌い出したのか。
気づいた時にはこの言葉を採用することが、良い人であるための必須条件になっていた。

親に感謝して生きる

不惑の40才を来年に控えて私は、惑うことを忘れてしまう前にと、世の中に満ちるこの言葉について迷い、考えている。

◆正直なところ、私は親に感謝していない

最初に立場を明確にしておけば、私はきっと、本心では親に感謝をしていない。
今にも「いい年をして、いつまで下らないことを!」「40歳にもなってみっともない」なんて言葉が聞こえてきそうだし、耳を塞がずにもう少し我慢強く聞いていれば

これだからセクシャルマイノリティは自分勝手で……

なんて言葉までも聞こえてくるかもしれない。
すべてが有り得そうだから、その準備として前回の原稿を書いた。

もしあなたの子どもが『セクシャルマイノリティ』だったらどうする?

ひと言で言えば、私と親との仲良し自慢を書いた。
私がセクシャルマイノリティであることが発覚したことを契機として、必要に応じて家族が一致団結し、手を取り合って歩いてきた。
そして今、その成果として私たちは、今までの親子関係の中でもっとも互いに心を許し、信頼し、共に過ごす時間を楽しみに生活している。
私にとっての親であり家族が「好き」の対象であることは間違いない。
けれども私は、親に感謝をしていないと言う。
どういう育ち方をすれば、こんな無謀なことを言い出せるのだろうか。
きっとこの思考の根底にも、私が性の定まらないXジェンダーであることは影響を及ぼしている。

Close up of female and male hands protecting a paper chain family. Top view of two hands form a circle around white paper chain family on wooden table. Family care, insurance and helping hand concept.

◆「謝罪」への抵抗

書籍でもドラマでも、性同一性障害の人が体を変える手術を受けるとき、手術したことを親に報告するとき、こんな場面を見ることは少なくない。

お母さん、せっかく健康な体に生んでくれたのに、ごめんなさい

当人は言葉をつまらせ、涙を流しながら途切れがちに想いを吐露する。
親は「自分こそちゃんと生んであげられなくてごめんね」と子を抱きしめる。
それを見て非当事者は、物語の中の数少ないポイントとして、感情移入する。
誤解を恐れずに言えば、これこそが性同一性障害を扱う作品の中で、最も華のある場面だ。
抱えているものこそ違え、当事者と非当事者が同じものに触れて涙を流すことを思うと、人が理解を深める上での、感情の交差点としての意義はあるのかもしれない。

実際のところ、私だって同じ場面で涙をこらえるのは、正直難しい。
けれども、それを理解した上で、私には疑問が残っている。
多くの人がこの場面を「当たり前にあるべきもの」として受け止めていくことは、本当に正しい姿なのだろうか?
そう思うから私は、自分が体を変える時に、決意をもって親に対して謝罪をしなかった。
そして同じように、親にも謝罪をしないで欲しいとお願いをした。

理由は単純に、理屈で考えて謝らなくてはいけない要素を見つけることが出来ないからだった。

私が私らしく生きていくためにすることに、親へ謝罪することの必要性を、親から謝罪されることの必要性を、私は見つけることが出来なかった。
それでも、私のように考えている人が少ないのは、自分の周囲を見回した肌感覚としても実感している。

人は、自分に正直に生きるためにさえも、謝罪をする

心情として理解しそうにはなるけれど、培ってきた理性は激しく抵抗している。

◆人生最大のわがまま

何故だか未だに法的な同性婚は認められていないが、結婚が両者の同意によってのみ行われるべきであることは、誰もが当然のことだと理解している。
そして人には自由意思によって選択をする権利があるということも、やはり誰もが知っている。
そう考えたとき、子どもを生むときに親は同じことを思うのだろうかという疑問が湧いた。
親になれない私には、その心情が分かりかねている。

不思議なものだと思う。
すべての子どもは意思確認をされることなく、この世に生を受ける。
当然のこと、生まれる前の子どもに意思確認を求めることが不可能なことくらいは私にも分かる。
けれども、対象は紛れもなく人なのだ。
この理屈を支えるものは何なのだろうか。
人は意志もなくこの世に生まれ、生まれながらに生きなくてはならないという使命を背負う。
誰の元に生まれるかを選ぶことも出来ず、どのような素材で生まれるかを選ぶことも出来ず、与えられた場所で生きることを前提に話は進み、共通の目的として「生き抜くこと」が設定済みとされている。

誰もが知っていることだ。この世に生きるすべての人は、生まれるまでの過程において何も選べないという同条件に拘束され、唯一「親が欲した」という事実だけを頼りとして、余りに不平等な環境の下に誕生している。

自我

これほど強烈なものは他に存在しないと言い切れる程に、これは自我なのだと思う。
人間が一人、自由気ままにどう生きるかなどというレベルではない。
親になりたい人間が、未だ存在しない無力な人間を巻き込んで、強制的に生きることを課す程の自我。
そう考えるのなら、人が人を生むということは、人生における最大のわがままではないだろうか?
自分の人生に子どもを持てないことを知ると同時に、遠い彼方へ消えていった「親になる」という選択について、私はそう考えるようになっていった。

◆永い言い訳

原作・脚本・監督:西川美和、出演:本木雅弘、竹原ピストル、ほか

映画『永い言い訳』

人間の心の揺らぎを見事に描き切った映画の中で、池松壮亮の言う言葉が耳から離れない。

子育てって、免罪符じゃないですか?〔中略〕みんな帳消しにされていく気がしますもん。自分が最低なバカでクズだってことも全部忘れて

私も同じことを思っている。

子どもは、親に生きる意味を与えてくれる」子育ては、そんなに簡単なものじゃないと言うのも分かる。
子育ての為にどれだけ自分の欲求を我慢し、どれだけ自分の時間を犠牲にしたか、どれだけ自分の人生を投じたかという思いも想像は出来る。

それでも、思いは変わらない。
だって始まりは「親の自我」だったのだから。

自分のために生きるには、80年という人生は長すぎる。

多くの場合、夢が破れ、期待は萎み、目標が定まらず、人生に意味も価値も見失った頃に、人は親となって、子どもを育てるという新たな存在意義を得る。

親にならずに今と同じ生き方を出来ただろうか?
子どもがいたから乗り越えられたことがどれだけあるだろうか?
そして、子どもがいたから自分を許せたことが、どれだけあるだろうか?

自分の為ならば否定するしかなかったことは、「子どもの為」になったとき、同じように否定されたままだっただろうか。

◆親に感謝をしなくてもいい

ここまですべての言葉を、私が親の立場として言えたのなら心象も違っただろうけれど仕方ない。
私は親である程の年頃で、一生親になれない道を歩いている。
自分の言葉を支えるものだって、「経験が想像に勝ることはない」という信念以外には何もない。
それでも私は意を決して、すべての子どもは、生まれた時点から何も背負っていない。
親から何も借りてはいないし、親に返すべきものも何もない。
だから、「親に感謝しなくてもいいよ」と言おうと思う。

すべての親は、自我を全開にして子どもを求めて親になった。
そして、親になることで生きる意味を新たに獲得した。

それは確かなことだ。
でも、それだけを起因にして、すべて親の身勝手だから親に感謝をする必要がないと言いたいわけではない。
それを踏まえた上で、想いの表し方が感謝でなければいいと、私は思っている。

okinawa,japan

単純に、「感謝」は苦しいのだ。

感謝には、相手の想いをくみ取って、それに応えてリボンをかけて返すようなイメージがつきまとう。
親がどんな想いで自分を生んだかを考える程に、この言葉は重い。

先に書いた「謝罪」にしても同じこと。
謝罪の向こうには、感謝として伝えられないことへの負い目があり、裏切りにも似た罪悪感がある。
これだって、やっぱり重い。

どちらにしても「本来あるべき姿」の影が、余りにチラついて仕方ない。
感謝という言葉の抱えるそれらが、正直、全部苦しいのだ。
親の想いを受け取り、感謝として返すことが親の肯定になると思うことが、全部苦しい。
だから私は、感謝などしなくていいと言う。
親子だって、「好き」や「嫌い」の感情で繋がればいいではないか。
親からの愛の告白によって子どもの人生は始まる。
それにどう答えるかは、子ども次第。
親との付き合い方は、それくらいに強気であるのが最適だと、私は思う。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

LINE@で最新情報をGET!

「LINE@」に登録すれば、ニュースの最新情報を受け取ることができます。

またここでしか受け取れない情報もありますのでぜひご登録ください。

1:1トークもできます。

相談したいこと、話したいことがあればいつでもお話しできます。

【1:1トーク可能時間】 9:00~21:00

友だち追加