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「TVで見るようなゲイは出てこない」漫画『そらいろフラッター』インタビュー

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2017年11月30日 20時00分 配信
引用元:KAI-YOU

世界的にLGBT(性的少数者を指す)が認知され、「LGBTブーム」とも呼ぶべき現象によってセクシャル・マイノリティをめぐる議論は活発となり始めている。
その影響は、社会や法律といった分野にだけ表れているわけではない。

近年、漫画や小説、映画、ゲームをはじめとするポップカルチャーにおける様々なメディアで、LGBTをテーマにした作品、あるいは性的少数者が登場する作品も増えている。
本連載では、そうした作品の生み出される現場に焦点を当てていく。

作品に描かれたものはもちろん、“描かれなかったもの“や”描けなかったもの“、そしてエンターテインメントだからこそ“描けたもの“とはなにか?
そこに、現在のLGBTと社会との関わり方を見て取ることができるかもしれない。

連載「LGBT表現が生まれ、送り出される現場」第2回目は、現在スクウェア・エニックス発行の雑誌『月刊ガンガンJOKER』で連載中の漫画『そらいろフラッター』を取り上げる。
本作は、おくら氏が自身のゲイ向けサイトで無料連載していた漫画を、リメイクする形となっている。

自身もゲイである、本稿筆者の須賀原みちがその制作過程について、原作のおくら氏、作画の橋井こま氏、そして担当編集の湯本彰伸氏にお話をうかがった(橋井こま氏は遠方在住のため、後日メールインタビューを行ったものを1本の記事として構成している)。

取材・構成:須賀原みち 編集:新見直

 

「エロじゃないゲイの話があってもいい」

──原作の『そらいろフラッター』は、おくらさんの個人サイトで連載されていました。まず、原作の連載を始めたきっかけは?

原作担当・おくら
もともと渡辺多恵子先生や吉田秋生先生の漫画が好きで、漫画家を目指して、大手出版社に投稿や持ち込みをしていました。
描いていた漫画としては、少年少女の恋愛漫画やラブコメで、特にゲイっぽい題材を入れたりとかはしていませんでした。
それで担当編集者もついたのですが、なかなか担当が納得のいく作品を描けなくなってしまって……。
担当からは「君は何を面白いと思って、漫画を描いているの?」と言われました。

それもあって、「自分が描きたいものを描こう」という気持ちで自分のサイトを始めたんです。

あとは、やっぱり漫画を読んでもらって反応が欲しいという承認欲求ももちろんありました。
もともと漫画連載自体はアクセスを増やすひとつの手段だったんですよ。
ただ、サイトをつくる上で参考にしようとほかのゲイ向けのイラスト・漫画サイトをめぐってみると、ポルノ作品がほとんどだったんです。
エロじゃないゲイの話があってもいいよな」ということで、自分が描きたい内容で描くことにしました。

──実際に原作を連載している時にはどのような反響がありましたか?

おくら
最初の頃の感想は、やはりゲイの人からだったと思います。
特に原作の7話あたりから、反応が来るようになりましたね。
自分が把握している限りでは、中高生から「すごい共感しました」という風に言ってもらったり、社会人の方が「自分が若かった頃に、こういう風に言ってもらいたかった」とおっしゃっていたり。

中でも、「こういう作品が読みたかったです」という反応が結構あって、それは本当に嬉しいことでした。
ゲイサイトでこんなエロなしの漫画がウケるのかっていう心配もあったので(笑)。

──作品を描く中で、「ゲイを肯定しよう」といったメッセージを込める意図などはありましたか?

おくら
正直、「メッセージ性を込めよう」とか「この漫画で悩めるゲイの子たちを救ってあげたい」といった気持ちは全然なかったです。

──失礼ながら、ご自身の学生時代の実体験を込めてみたり、あるいは学生時代のトラウマを漫画で描いて克服しようといった気持ちなどは?

おくら
学生時代からゲイという自覚はあって、同級生を好きになったこともありますが、もちろん隠していましたし、特にそれで悩んだりもしていませんでした。
友達はいっぱいいたし、学生生活は普通に楽しくやっていたので。
なので、実際に漫画のようなことがあった、というわけではありません。

(漫画で描いたのは)「こういうことがあったら良いな」くらいですかね。
完全に後付なんですけど、原作の(主人公のひとりである)能代は、自分にとって「こういうノンケがいたらいいな」っていう理想化されたノンケ像なんです。
悪気もなく、ゲイということについて純粋に興味を持ってくれる人。

ゲイを秘密にしてる人たちって、絶対にどこかで自分のことをしゃべりたい欲があると思うんですよ。
当時、興味本位でもいいから、自分のことを聞いてくれる人がいたなら救われてただろうな、って。
能代というのはそういうキャラクターなんだと思います。

──能代は多少の偏見はあるけれど、それで態度を硬化させるわけでもなく、真正面から向かってくるキャラクターになっていますね。

「君が何を描きたいのか、ようやくわかったよ」

──「月刊ガンガンJOKER」で連載が始めるまでの経緯をお教えください。

おくら
原作は界隈で話題になっていたようで、イタリアのLGBT向けの漫画コンテンツを扱う会社からもお声がけいただき、リファインしたイタリア語版を出版することができました。

それで「日本でも『そらいろフラッター』を出版したい」と思って、大手出版社の担当にも見せました。
君が何を描きたいのか、ようやくわかったよ」と言ってもらい、同じ会社の別の編集部を紹介してもらったり、知人にLGBTなどのコンテンツも扱っている出版社を紹介してもらいましたが、なかなか実現できない状況が続きました。
友達とは「いざとなったら自分で同人誌として出そうか」という話もしていて。

『そらいろフラッター』担当編集者・湯本彰伸(以下、湯本
その頃に、僕は「別の漫画を描いてほしい」ということで、おくらさんにお声がけさせていただきました。

僕には親しいゲイの友人がいまして、彼から「『そらいろフラッター』という漫画が面白い」と聞いたんです。
Web系の作家さんを探す中で、「そういえばゲイコンテンツの中で描いている作家さんは探していなかった」と。
それで、『そらいろフラッター』を読んでみたらすごく面白かった。

おくら
ただ、湯本さんと企画を練っているタイミングで、別の大手出版社での漫画家デビューが決まり、連載をすることになりました。
それで、その企画は保留になっていたんですが、数年後にその連載が終了するということで、改めてお話をいただいて。

湯本
そこで「『そらいろフラッター』のリメイクはどうですか?」というお話をしました。
もちろん、もう少し一般向けというか、書店で見るような人も買って読めるようなものにしなきゃいけないということで、しっかりとしたリメイクをお願いすることにしました。

売上だけじゃない、漫画をつくっていく意味

──連載を始めるにあたり、「月刊ガンガンJOKER」編集部で起こった議論などがあれば、お教えください。

湯本
うちの雑誌はわりと「面白ければ載せちゃおう」というところはあります。
編集部全員や営業の人間にも原作を読んでもらって、みんな「面白い」という反応でしたし。

あとは、社会状況的に、ブームと言っていいのかわかりませんが、LGBTの議論が盛り上がっている中で、この作品を投下するのは編集部的に“あり”と判断して、GOが出ました。

──連載決定にあたって、いわゆる“LGBTブーム”が後押しした?

湯本
それは確実にあると思います。
今でもその文脈でピックアップしてもらって、作品の人気に火がつけばいいとも思っています。
また、そういう状況だからこそ、読んでほしい作品でもあるなって。

おくらさんはどちらかというとフラットに描いていると思いますが、この作品を紹介してもらったゲイの友人に話を聞くと、彼は(主人公のひとりでゲイの)真田のような経験があるということでした。
何気なく出る仕草などからオカマだのなんだの、学生時代からずっと言われてきた、と。

彼の話を聞いて、押し付けがましい形ではなく、この作品を通じて、ひとつの選択肢として「こういう生き方や考え方もある」というのを世に出したいという気持ちになりました。
それは社内を説得する際にも話したことです。

(売上などの)数字だけではなく、漫画をつくっていく意味として、今世の中にあふれるわかりやすいエンタメではない、すごく平凡なものだけど読んでいる人の考え方に何か変化のきっかけを提示できる作品として読んでほしいな、と。

気をつけているのは、“普通の日常を描くこと”

湯本
ただ、おくらさんの絵柄については、失礼ながら今風のキャッチーな絵柄というわけではないので……。
誰からも好かれるような絵柄を描ける人として、(作画担当の)橋井こまさんにお声がけさせていただきました。

──単行本1巻のあとがきで、橋井さんは「何も知らない私にちゃんと務まるだろうか……」とも書かれていますよね。

湯本
変に理解があって、バイアスがかかった状態で描いてしまう人よりも、何もわからない人のほうが良いかな、と思ったんです。
それこそ、橋井さん自身が「この話をどう感じるのか」というところも入れてほしかった。
毎回、ネームをお渡しすると、橋井さんがキャラの考え方に影響を受けることもあるみたいです。

それは、やっぱりこの作品がゲイを扱っているけれど、テーマとしては普遍的なものを描いている証拠、この作品の持っている力だと思うんです。

──橋井さんは、最初に原作を読んだ時にどのように感じましたか?

作画担当・橋井こま(以下、橋井
私が思っていた“BL漫画”とは違うなと思いました。

原作を知ったのは、湯本さんに「作画をやってみませんか?」とお声をかけていただいた時でした。
それまでは“BL漫画”といえばセクシャル描写が多いイメージがあったので、少し苦手意識もあったかもしれません。
でも読んでみると、ゲイというよりも人間を描いているところが素直にいいなと思いました。

──原作と作画に分かれていますが、どのような作業分担ですか?

おくら
僕が(漫画の下書きである)ネームを描いています。
橋井さんがキャラの感情に入っていけるように、表情のニュアンスなども伝わるように。
(キャラの心情などが)わからない部分も絶対にあると思うので、そういったところには脚注を入れています。

──おくらさんのネームに対して、橋井さんの意見で変更される部分はありますか?

おくら
いっぱいあります。
コマ割りや演出の部分は作家性に由来するので、そこは作画をする方のお仕事でもあると思っています。

──作画をする上で、橋井さんが気をつけている部分はありますか?もし『そらいろフラッター』だからこそ気をつけている部分などがあれば、あわせてお教えください。

橋井
気をつけている部分は、表情です。
このキャラは今何を思ってこういう表情になっているのかをネームを何回も読み直して描いてます。

ですが、やはり解釈やニュアンスの違いが出てくるので、おくらさんにどんなニュアンスなのか詳しく教えていただいたり、湯本さんに「こうしたらどうだろう」とアドバイスいただいたり、大変助けられてます。

あと能代のぽっちゃり体型も、今でもたまに「細い!」とご指摘されるので気をつけたいところです……!

そらいろフラッター』だからこそ気をつけている部分は、普通の日常を描くことです。
私自身、原作を読んだ時にそこがいいなと思った部分でもあるので。

──リメイク版での作画をお願いするにあたり、橋井さんのリアクションで記憶に残っているものはありますか?

湯本
橋井さんはたまにBLを読んだことはあったらしいのですが、ご自身が描くことへの不安は非常に持っていたみたいです。
友人から「橋井さんがこういうBLみたいなものを描くとは思わなかった」と言われ、思い悩んだこともあったみたいです。

おくら
……!自分はこの作品を手がけていることを、親やノンケの友達には言ってないんです。
でも考えてみたら、橋井さんはご自身のお名前でやられていますもんね。
負担になっちゃったんでしょうか……。

湯本
いや、最近はそれも乗り越えて、原稿もすごくノッていますし、楽しく描いてくれてますよ。

──橋井さんにお伺いしますが、『そらいろフラッター』の作画を担当するとなった際、率直に思ったことをお教えください。期待や不安などはありましたか?

橋井
作画を担当することが決まった時は、正直「私でいいのだろうか……」と不安で仕方なかったです。

リメイク版のキャラの容姿は私がデザインさせていただいたのもあり、作風含め、特に原作ファンの方からの反応が怖かったです。
ですが、Twitterなどであたたかいお言葉をくださる読者さんもいて安心しました。

一時期、自分がBLを描くことに対して周りの反応を気にしすぎて悩んだりもしましたが、今は楽しく描いてます!
精一杯頑張りたいです!

──おくらさんは、一般の漫画誌でゲイを取り上げた漫画を連載することに不安などはありませんでしたか?

おくら
月刊ガンガンJOKER」は女の子キャラがいっぱい登場する若年層向けの漫画雑誌というイメージでした。
なので、男キャラばっかりでゲイを取り上げた作品をちゃんと読んでもらえるか、とは思いました。
ゲイネタってネットなどですごい盛り上がるんですけど、ネタで終わってしまったら悔しいな、と。

でも、どちらかというと一般誌に載ることにワクワクしていて、期待が大きかったです。

──実際に「月刊ガンガンJOKER」での連載が始まり、どのような反響がありましたか?

おくら
(原作は)5年前に完結していた作品なので「学生の頃に読んでいたあの作品が今、リメイクされるなんて感慨深い」という反応だったり、「月刊ガンガンJOKER」という有名な少年漫画誌でやることに驚いてた人もいましたね。
色々な人に読んでもらえるのは良いことだよね」という声もあったり。

リメイク版の連載が始まる頃には、『弟の夫』(双葉社)の連載も始まっていました。
あの作品も“ゲイについて知らないことを教えてくれる”といったお話でしたが、『そらいろフラッター』はもっと若年層に届けられるんじゃないかと考える方々もいらっしゃいました。

──既存の「ガンガンJOKER」の読者からの反応はどのようなものでしたか?

湯本
普通に“青春もの”として捉えられている気はします。あとは、女性の読者がけっこういますね。
主人公の一人が太っちょなので物珍しいんだけど、“キレイな古典BL”という風に見ていただいてるのかな、と。

なにより、実際に読んだ人の反応はものすごく良いです。
単行本1巻を発売する時に書店員さんにも読んでもらったら、しっかりと店舗展開をしていただけたり。
それでも、まだまだ届けたいところに届いていない感じはするのですが。

──橋井さんの周りで、『そらいろフラッター』に対する反響で印象的なものがあれば、お教えください。

橋井
BLが苦手な知り合いの方がコミックを読んでくれていたらしく、「クスっと笑えるところもあって普通に読めた。」と感想をくれたのが印象に残っています。

ゲイが登場する普通の漫画と思って読んでもらいたい

──(KAI-YOU編集・新見)すごく不躾な質問だと思うのですが、お聞きします。おくらさんが『そらいろフラッター』を手がけていることについて、ご家族やご友人には言ってないということでした。もちろん、カミングアウトする/しないというのはご自身で決められたことだと思います。ただ、そういった点について、おくらさんの中で折り合いはついていらっしゃるのですか?

おくら
そこはちょっと難しくて……。
もちろん、『そらいろフラッター』を描いているということは全然恥ずかしいことではないので言いたいんですけど、やっぱり親が(息子がゲイであることについて)どう思うかはわかりません。

先日、帰省をした時には、姉にカミングアウトをし、連載のことを伝えて相談したんです。
うちは母親も漫画が大好きで、同性愛要素のある作品もたくさん読んでいるから、(ゲイについても)理解があるだろうと思っていましたが、姉からは「お母さんには言わないほうがいいんじゃない?」と言われました。
姉は、母親が「漫画で見るのはいいけど、実際にああいうこと(同性間での恋愛)があったら嫌だ」というようなことを言ってるのを聞いたそうなんです。
だから、まだちょっと言わないほうがいいかな、と。

自分としては、カミングアウトしているノンケの友達も何人かいるし、言ってもいいかな、とも思うんですけど……。
今回の取材で顔出しができないのも、不意に親にバレるのが嫌なんですよ。
いつか言う時には「こういう作品をやってるよ」というのを、ちゃんと自分で伝えたいと思っています。

──お答えいただき、ありがとうございます。実際に一般誌に載ることで、多くの人に読んでもらうことが出来た?

おくら
今までと違う読者層の目に触れる機会になっていると思います。
ゲイ漫画」とくくると拒否する人もいますが、ジャンル漫画ではなく、ゲイが登場する普通の漫画と思って読んでもらえたら嬉しいですね。

湯本
キャッチコピーにもすごく悩みました。“ゲイ”という単語を入れてしまえばキャッチーなんだけど、どうしようかな……と。
最終的には、意外と芯をついたものにはなったと思います【注:人が人を好きになる気持ちに「ふつう」も「とくべつ」もない。】。

──それこそ『そらいろフラッター』は、特別にゲイ業界のようなものを取り上げて描いているわけではないですからね。

おくら
自分もゲイですけど、ゲイに対して疑問を感じる部分があったんです。
だから、主人公を能代というノンケにして、彼の目線から「ゲイとは何か?」というのを見ていく形にしています。

──ゲイに対して疑問を感じる部分とは?

おくら
例えば、自分はいわゆる”オネエのノリ“が実はあまり得意ではなかったりします。
メディアも手伝って「ゲイというとオネエ」「ゲイはみんなそういうノリが好き」といった認識があるかもしれません。
でも、僕のように自分の中にオネエ的な要素ってあまりないなっていう人もいると思うんです。
自分でそう思っているだけで他人からみられたらわかりませんけどね(笑)。
だから、自分の感覚での“ゲイ像”というのは、真田やヒデになるんです。

メディアで見るようなゲイはほとんど出てこない

──原作とリメイク版では、原作の4話で登場した能代に想いを寄せるマコトの登場が後回しになったり、女性キャラの大和菊が山本あゆみとしてキャラクターデザインも変わって、劇中での存在感が強くなるなど、かなり違いもあります。この変更意図などをお伺いできれば、と。

おくら
まずはちゃんとメインの3人に焦点を絞って、掘り下げたいというのがありました。
原作ではほとんど描かれなかったあゆみにフィーチャーしたことで、広がりは出ていると思うんですよね。

──ひねくれた見方ですが、やはり一般誌での連載ということで女性キャラも前面に出す必要性があったのかな、と……。

湯本
まぁ、それは確かにあります(笑)。

ただ、『そらいろフラッター』は一般の人にちゃんと読んでもらえる青春漫画であって、真田を語る上でも、「ゲイをテーマにした漫画じゃない」という宣言をするためにも、あゆみの存在はすごく大事でした。
そうじゃないと、能代を主人公にした“ゲイのギャルゲー”みたいな感じになってしまうので、それは避けたかった。

おくら
男ばっかりのBL的なものではなくて、普通に女性もいる世界として描きたかったんです。

マコトも最近出てきましたが、小さくて可愛いビジュアルに変更しています(笑)。
原作のマコトは、自分が太め好きということもあり、同じように太めが好きなゲイの読者へのサービス的な要素も大きかったので。

湯本
リメイク版のマコトは「自分がゲイだ」ということを特に隠しておらず、そこは真田とは違うゲイになっています。かといって、テレビで見るようなオネエキャラというわけでもなく。

おくら
真田とは逆の性質を持っていますね。

──マコトやヒデなど、それぞれ違った性質を持つゲイキャラを出すのは、ノンケの人が読んだ時に「ゲイ≒真田」となるのを避けたいという意図がある?

おくら
世の中の認識がどの程度かわからないんですけど、『そらいろフラッター』ではいわゆるメディアで見るようなゲイはほとんど出てこないんです。

──それはリアリティを追究しようという意図から?

おくら
肌感覚として、自分の知ってるゲイを描こうということですかね。
メディアで見るゲイだけが、ゲイじゃないよって。

とはいえ、メディアで活躍している方の中でもそういう肌感覚に近い方はいて、例えばマツコ・デラックスさん。
あの方はゲイであることをアイデンティティの核にしていないというか、メディアでもあまりゲイとは扱われていないように思います。

──マツコさんによれば、そこはご本人もかなり意識されているそうです。

マツコ・デラックス インタビュー Webメディア/ゲイについて

悲痛な話にはしたくない

──ともあれ、原作からの変更点もあったことで、お話自体も変わってきていますよね。

おくら
着地点としては原作を元にしていますが、原作で描けなかったことや描き足りなかった部分を補足しながら描いています。
なので、もう正直別物ですよね(笑)。

湯本
リメイクとなると、普通は原作と見比べてチェックをするんですけど、僕はもう原作と見比べてないです(笑)。
無理に原作と合わせようとすると失敗するので。

──リメイク版ではページ数の多い連載ということもあり、よりドラマに踏み込んだ描き方をされているように感じました。

おくら
原作はゲイを知っている人たちが読んでいたので、真田の考えていることなど、言わなくてもわかる部分がいっぱいあったと思います。
能代の視点」を印象づける意味でも、原作では意識的に真田のモノローグを入れないようにしていました。

でも、リメイク版では「真田は何を考えていて、どういう人間なのか」というのがわかるよう、丁寧に描き直しをしています。

──一方で、原作にあったヒデと能代が一緒にお風呂に入るシーンが変更されるなど、原作とリメイク版を見比べると、セクシャルな描写が減っているようにも思えます。原作ですと、ヒデの裸などもありますし。

おくら
原作のお風呂シーンについては、これまたサービス的な要素だったり、今思えばご都合主義な部分もあったかもしれません。リメイク版で一番気をつけているのは、「能代がゲイにとって、都合の良い考え方をしてくれる人物にはならないように」ということです。

湯本
ノンケが「私はホモです」って言ってる人(ヒデ)の家に行って、普通、一緒にお風呂には入らないな、と(笑)。
ほかにも、ノンケが理解できないであろう描写は別の表現に変えるなどして、削ぎ落としてもらっています。
そういう点でのジャッジはけっこう厳しめにしていますね。

──原作ですと、物語が進むと真田や能代を襲おうとするキャラクターとして、狛江先輩や寺山が登場してきます。そういう意味では、セクシャル的な要素も強いキャラクターたちですが。

おくら
狛江先輩や寺山の描写は、ちょっと考えなきゃいけないと思っています。
リメイク版では、能代の意識がまだセクシャルな部分にまでいっていません。
そこに興味を持ち始めたあたりで出てくるのが、狛江先輩や寺山なんですよね。
リメイク版でそこまで踏み込めるかどうかは、まだ読めてないです。

湯本
出て来るとしても、だいぶ先ですしね。
心の動きを描くのであれば、メインの3人+マコトで十分なので。

おくら
原作は能代が「ゲイとはどういうものか?」ということに踏み込んでいく形になっています。
そして、狛江先輩の登場によって、能代は「男とそういう行為をするとは、どういうことか」というのを思い知らされる。
やっぱりゲイを語る上で、セクシャルな部分というのは根幹に関わってくるし、絶対に意識するものです。
そういった心と身体のつながり、身体的な欲望という面も描けたらいいですけど……。

ただ、リメイク版についてはあまり“ゲイ”という要素に寄らなくてもいいのかな、とも思っています。

湯本
僕としては、『そらいろフラッター』は“登場人物の一人がゲイ”である『君に届け』『アオハライド』(共に集英社)くらいの路線なんです。
なので、表現レートとしてもそのあたりを基準に考えています。

──それでは改めて、リメイク版に込めたメッセージをお教えください。

おくら
リメイク版にあたっては、「こういう形があってもおかしくないんじゃないか?」という提示をしたいんです。

そのひとつとして、真田というキャラクターがいます。
原作の時から、真田はゲイであるが故の悩みはあるんですけど、ゲイであること自体は受け入れています。
ゲイじゃなければよかったと思ったり、ゲイであることを不幸に思ったりはしません。
真田が抱えているのは、普通の恋愛の悩みなんです。
だから、悲痛な話にはしたくないと思っています。

そして、能代は「自分も男を好きになるんじゃないか?」という感情で揺れ動きますが、それが正しいか正しくないか(の判断基準)は、今の世の中のシステムや思想や常識とかがつくっているものなんですよね。
だから、「では、自分はどう思っているのか?」というところは見誤らないように描いていきたいと思っています。

──真田や能代の悩みなどは、人と人とがコミュニケーションする上での普遍的な悩みともいえると思います。おくらさんはそういったものを描きたいのかな、と。

おくら
人物とその関係性を描きたいんですよね。原作版は好きなように描いていたので、リメイク版としては、これを読んだ人が何か考えるきっかけになればいいかな、と思っています。

「ふつう」って意味が自分の中でストンと落ちた気がした。

──最後に、LGBTブームが喧伝される今、おくらさんはLGBTをめぐって何か変化などを感じることはありますか?

おくら
自分の身近に限って言うなら、正直ほとんど感じないですね。
もっと当事者として自分から関心を持つべきだとは思うのですが……。

LGBTフレンドリーなど、LGBTに理解を示す、求める活動は非常に有意義で必要なものだと思います。
同時に、「LGBT」という言葉で一緒くたにカテゴライズされたり、特別扱いされることを窮屈に感じる人もいます。

ただ、創作物に関してはいろいろなものが出やすくなってきているとは思います。
それは例えば“ジジイ萌え”だったり、「そういう萌えもある」ということがSNSなどでも可視化されて、共感を得られることで「好きなものを好き」と言いやすい状況にはなっているんじゃないでしょうか。

湯本
アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』は、わざわざ「ゲイです」とカミングアウトする必要のない世界になっていましたよね【注:劇中で男性同士が自然と好かれ合うシーンがあり、話題となった】。
同性愛もみんなが自然に受け入れている世界、そういうのが目指すべき世界なんだろうな、とも思います。

──それでは、橋井さんご自身や橋井さんの周りで、LGBTに関する変化などを感じることはありますか?

橋井
自分のことになりますが……『そらいろフラッター』に出会う前は、「LGBT」という言葉や「ノンケ」という言葉があるのも知りませんでした。

正直に言いますと、能代と同じで自分には関係ない世界の人たちだと思っていました。
なので、最初の頃はおくらさんや湯本さんが「ふつう」と言っている意味も正直よくわかりませんでした。

ですが、毎月『そらいろフラッター』の原稿を描きながら気づかされることがあります。

本当の自分を隠していたり、「皆と違う自分は変だ」って悩んでたり、自分を受け止めてくれる人の存在に気づいて頑張ってみようと思えたり。
そういう気持ちは、ゲイであろうとなかろうと一緒なんだな、と思ったら「ふつう」って意味がなんとなく自分の中でストンと落ちた気がしました。

LGBTを知らない人や「関係ない」って思っている人にも、『そらいろフラッター』を通してそういうのを知るきっかけになったらいいなと思いました。

おくら
そらいろフラッター』では押し付けがましくなく、キャラクターを追っていくことでゲイについて理解してもらえるような、そんなひとつの例として提示できる作品にできればいいな、と思っています。

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