性別適合手術

もし20年前に「性別適合手術」が保険適用されていたら…?

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2017年12月10日 14時00分 配信
引用元:現代ビジネス

男性として生まれたものの自らの「性別」に違和感を覚え、同性愛、性同一性障害など、既存のセクシャルマイノリティへ居場所を求めるも適応には至らず、「男性器摘出」という道を選んだ鈴木信平さん。

そんな鈴木さんが、「男であれず、女になれない」性別の隙間から見えた世界について描いていきます。
今回は先月医療保険適用への検討が示された「性別適合手術」について大いに語ります。

「性別適合手術 医療保険適用へ」

2017年11月29日。

スマートフォンの画面に映し出されたその見出しに、私はまさしく我が目を疑った。

性別適合手術 医療保険適用へ

正確には「審議中」とのことだが、その道筋にはしっかりと光が差しているようだ。
来年度からの適用を見据えているという。

通勤電車の中で記事を読み、驚くと同時に胸にじんわりと温かいものが宿った。
歓喜の雄叫びというような爆発的な何かではなく、ゆっくりと噛みしめるように、少しずつ染み入るものがある。

ここまでにどれだけの人の血のにじむような努力や覚悟があっただろうかと想像する程に、ひたすら己に決着をつけることに終始している自分を振り返って、安易に感謝や慰労などとは言えない頭の下がる思いを抱いた。
それと同時に、

もしもこれが20年前だったら、私の人生は変わっていただろうか?

という問い掛けがふと胸をよぎる。

もしも自分の状態を診断されることによって医療保険が適用されるかもしれないとなった時に、私は今と同じ道を選択していただろうか?

36年もの時間をかけて自問自答を繰り返し、自分の性に一応の決着をつけるために男性器を摘出した私のオペは、もちろん全額自己負担だった。
その後に出血が激しく救急搬送を依頼した病院での支払いも、自ら頼んで処方してもらった止血剤でさえ10割負担だった。
それでも不満は何もなかった。
なぜならすべては「最初から知っていたこと」だったから。
それを知った上で進んだ道であることを私は自覚していた。

そんな私の胸に、もはやすべて過ぎたこととはいえ、予期せぬ医療保険適用のニュースを知って一抹の不安が浮かんだ。

私は自らの意志だけを頼りにその道を選んだと思い込んでいたけれど、私が性同一性障害の診断書を得ずに体を変えるオペに進んだ理由の一つに「診断書があっても全額自己負担」という考えはなかっただろうか?

間もなく電車が勤務先の最寄駅に着き、私のほとんどすべては仕事用のスイッチに切り替わる。
いつの間にか私の日常は、人生を変えたかもしれないニュースにもひっくり返すことはできないほど確かなものになっていた。

お金だけの問題ではない

私にとっても「性別適合手術 医療保険適用へ」は純粋に嬉しいニュースだった。

生まれついての体と性自認が同一の性ではない状態を、本人の努力では変えることのできない「障害」として世の中に広めた「性同一性障害」という言葉を私が知ってから20年程が経つ。
その間、めまぐるしいスピードで社会における「」の認識は変化し広がりをみせていった。

言葉の正当性は別として、セクシュアルマイノリティを総じて「LGBT」と呼ぶことは誰もが周知のこととなり、当事者や応援者として啓蒙活動をする人たちの数は格段に増えた。
セクシュアルマイノリティへの理解や配慮を広げようと企業は動き出し、選挙戦など政治の中にさえも、有権者の支持を得るのに有効な政策としてたびたび登場するようになった。

未だ十分には至らずとも、少なくとも20年前と比べれば間違いなく、性別に関係するあらゆる主張や考え方は市民権を得てきたと思う。

それでも、性別適合手術が保険の適用外である事実はまったく変わらなかった。
それを「障害」としながらも、助けの手は伸ばされなかったのである。

その事実が自らをわずかながらも当事者の片隅に置いた私に何を突き付けていたのかと言えば、正直なところ金銭的な絶望感ではなく、「私の心は国によって守られる対象ではない」、「社会は私の居場所として用意されていない」という無慈悲な現実だった。

タフに生きなくては
強くならなくては
自分は自分で守らなくては

そう思う以外に、前を向いていられる方法など見つけようもない。
保険適用と適用外の間に存在する70%の差異は、決して財布の中身や銀行口座の残高だけを対象とした違いではない。
存在に対する断絶の深すぎる溝だったのだ。

それが今、こうして保険適用の対象として極めて前向きに検討されていると言う。

金銭的な負担が減ることはもちろんだけれど、むしろそれよりも大きな割合で、性に対する困難の一つと社会との間を繋ぐ橋がかかったことに対する喜びは大きい。
自分の生きる国が自分たちの存在に対して目を向けたという安心感は、やっと社会の一員になれたと感じる喜びに近いものがあった。

ついに社会が動いたのだ。

性別適合手術の保険適用に個人的なメリットがあるかと言えばもはや何もないけれど、少なくともこれからを生きる人たちにとって、この変化があらゆる面で孤独を遠ざける一助になればいいと心の底から願っている。

「当事者」ならわかり合える?

インターネットが当たり前のインフラになり、多くの人がスマホを手にするようになった。
思い付いた時に検索ワードを入力するだけで世界中の情報が手に入るようになり、SNSが充実して個人単位の感情でさえも気軽に触れられるようになった。

それによって私たちは、何へのハードルを最も下げたのか?
その一つは間違いなく「他者への否定(悪口)」であろうと思う。

当然のように、私を幸せにしたニュースもその標的となった。

正直なところ、それが道行く人の反対意見ならば一向に構わない。

無駄、信じられない」と言われようとも、「他の治療に使うべき!」と言われようとも、そんなものは見て見ぬふりをして、聞いて聞こえないふりをすればいい。

一定数の批判を必ず受けることは、最初から織り込み済みの話なのだ。
今更、目くじらを立ててむきになる必要もない。
そもそも順風満帆な人生ではないのだから、味方が少なく設定されていることにもいい加減慣れている。

その理解にあっても尚うんざりするのは、自らに掲げる「LGBT当事者」「性的マイノリティ」の名の下に、「性別適合手術を受けない人」からの真っ向からの反対とも言えない程の、中途半端に水を差し、周囲に不安だけを蔓延させようとする「懸念」が多いことだった。

安直な手術への判断?治療としての効果の検証?国家による性二分化の強要?

なぜなのだろう?何の為なのだろう?目的は何なのだ?
私が尽力したわけでもないのに、見ているだけで自分でも驚くほどに不愉快になる。

あなたが性別適合手術を受けないのなら、単純に「あなたには関係ない」話なのではないか?
どうして「関係者」のような顔で懸念を表明するのだろう?

ドン・キホーテ渋谷店が「ALL GENDER」トイレを作った時にも思ったことだが、「使いたくない人」は使わなければいいだけなのに、とにかく「懸念」を生産する。

次の段階を見据えて前を向く建設的な意見というわけでもなし、これらの人は何がしたいのか?
広義の中では仲間と捉えることもできるはずなのに、どうしたって好きになれない。

こういう人には是非、ニュージーランドの同性婚賛成派議員が国会でしたユニークなスピーチを少しでも聞いてみて欲しい。

この法案が採決されたからと言って太陽は明日も昇ります。
ティーンエイジャーの娘はそれでも、知った顔をして何でも反抗してきます。
あなたの住宅ローンは増えたりしません。
皮膚病にかかったり、布団の中にヒキガエルが現れたりしません。
この法案が通ることは、影響がある人にとっては素晴らしいものです。
でも、そうでない人にとっては、人生は何も変わったりしません。

(出典:同性婚賛成派のスピーチがNZらしさ全開で素晴らしい│日刊ニュージーランドライフ)

人と社会の両輪を求めて

前に記すニュージーランドの国会議員が言う言葉の中には、「何がいけないか」ではなく、「何が素晴らしいか」を考えようという提案が含まれているのではないだろうかとも思う。

冷静に物事を捉え、正確に判断する。
その中に、素晴らしいことを見つけていくこと。
これは人生を豊かに暮らすうえで、とても大切なことだ。
では、その為に何が求められるのかと言えば、「確かな自分」なのだと思う。

私が自らの性に悩み始めた頃、今と比べて情報は圧倒的に少なかった。
そのことが今の私にどんな功を奏しているかと言えば、それは間違いなく自問自答する時間が長かったことにある。

誰かが何を言っているから」ではなく、「世界の標準がどうだから」でもなく、何にも因らずに「自分」を確認していくこと
社会が変わる程に選択肢は増え、情報量が増える程に判断には迷いが生じる。
それでも、確かな「自分」を生きていくこと。

性別適合手術の医療保険適用によって、性同一性障害である人の選択肢は間違いなく増えていく。
その時にこそ、それを選ぶ自分自身がより確かな人であれるように、これからを生きていく若者たちには変わらず、日々自分との対話を続けていって欲しいと思う。

自分の人生を決めるのは、社会がどんなに好意的であろうとも、逆に批判的であろうとも、自分自身なのだ。

何はともあれ、こんなに嬉しいことはない。

性別適合手術の医療保険適用に尽力された方々に心からの敬意と共に、これからを生きる人たちへいっぱいのエールを送りたい。

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