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「LGBT法案」が大きな反対もないのに進展しない理由

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2018年5月14日 配信
引用元:ダイアモンドオンライン

今年も、LGBTの一大イベントである「東京レインボープライド」が大盛況のうちに幕を閉じました。
イベントのクライマックスである「プライドパレード」には、祭典の主旨に賛同する多くの国会議員・地方議員も参加し、マスコミのカメラに笑顔をふりまきました。
そうしたなか、通称「LGBT法案」と呼ばれる、性的少数者の人権に関する法律を作ろうという動きがあることをご存じでしょうか?
法律をめぐる動きがなかなか進まず、混沌としていることもあり、全貌が見えづらい面がありますが、これまでの経緯をまとめます。
(文/冨田 格 写真/福島宏之)

通称「LGBT法案」― きっかけは2016年の春

通称「LGBT法案」という言葉を目にする機会が増えたのは、いまから2年前の2016年のことです。

この年の5月27日、民進党・共産党・社民党・生活の党と山本太郎となかまたち(法案提出当時/現・自由党)の野党4党が、国会会期末に「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(通称・LGBT差別解消法案)を提出しました。

同じ頃、自民党では、『性的指向・性自認に関する特命委員会』が取りまとめた「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」が発表されました。

自民党の特命委員会では「LGBT理解増進法案」を検討していましたが、こちらに関しては党内で様々な意見・考えがあり、そこを調整して国会に提出するまでには至りませんでした。

野党4党と自民党の動きが報道されて、性的少数者の人権に関する法律が作られようとしているのだ、というぼんやりとした認識が当事者の間に広まりました。

与党と野党による2つの法案の違いは?

この2つの法案の違いを、簡単に説明します。

野党4党が提出した「LGBT差別解消法案」は、性的少数者への差別だとみなされる自治体や企業に対して、罰則規定を設けて差別を解消していくことを目指しています。

自民党の特命委員会で検討している「理解増進法」は、人権教育や人権啓発などを通じて性的少数者への理解を深めていくことで、「知らないが故に生まれてしまう差別的な感情」を減らしていくことを目指しています。

どちらの法案も、性的少数者の人権を守るために考えられたものですが、その方向性やアプローチの仕方は大きく違います。

LGBT差別解消法案」は、罰則規定を設けることで、当事者が差別だと感じている行為を禁じようというものです。

理解増進法案」は、広く国民に対して、人権教育や人権啓発活動を通じて性的少数者への理解を増進することで、当事者が差別だと感じている行為や状況を減らしていこうとするものです。

LGBT差別解消法案」は、即効性はありそうですが、差別認定をどのようにするのかという点が大きな問題になりそうです。
また、罰則規定があるゆえに表面上は差別が減っていくかもしれませんが、心の差別感情は消えません。
表に出ない形での差別的な行為は、逆に深刻になってしまうのではないだろうか、という危惧があります。

理解増進法案」は、罰則規定がないため、単なる理念法に過ぎないので効果が見込めないのではないだろうという声はあります。
また、理解を浸透させていくには時間がかかるので現状の差別が解消されないままになってしまうのでは、という危惧を抱く人もいます。

2つの法案にこれだけ大きな違いがあるのは、保守とリベラルが「変革・改革」に対して異なる考え方をすることに由来していると思われます。

リベラルは、より早い速度での「変革・改革」を行い、目指す世界を作り上げていこうとします。
その過程で多少の摩擦が生じることも織り込み済みでしょう。
それに対し、保守はより多くの人の合意を得ながら、いらぬ摩擦が生じないように、「変革・改革」をじっくり進めていこうとします。

スムーズに法制化を進めたいが、当事者でも把握しづらい状況

2つの法案は、いわゆる議員立法であり、立法府に所属する議員の発議により成立を目指すものです。
議員立法は、原則としては全会一致での成立が望ましいものと言われています。

スムーズに法制化を進めるには、超党派で作る議員連盟で、法案に関して各党の考えを突き合わせて、いずれの党も賛成できるように検討していくことが必要です。

2015年3月に「LGBTに関する課題を考える議員連盟」という超党派議連が立ち上がっています。
しかし、この議連はあくまで勉強会的なものであり、法案に関して検討することを目的としていません。

そのため、「LGBT差別解消法案」と「理解増進法案」という相容れない性格の法案が、野党と与党で別に動き出してしまったのです。
この混沌とした状況ゆえに、本来、法案を必要とするはずの当事者の中でも、状況をきちんと把握しづらくなってしまいました。

LGBT差別解消法案、理解増進法案、それぞれの現状

2016年5月に国会に提出された「LGBT差別解消法案」ですが、審議されることがないまま、現在は廃案になっています。

法案が提出された2年前とは野党の状況が大きく変わっているため(衆議院では民進党が立憲民主党、希望の党、無所属の会に分かれ、のちに国民民主党ができるなど一部合併再編が進んでいるため)、今後どのような動きになっていくかは、現時点では明らかになっていません。

しかし、立憲民主党で当選した当事者でもある尾辻かな子議員(大阪府第2区)は、今年2018年に入ってから新聞のインタビューで「LGBT差別解消法案を実現したい」と語っています。
また2018年5月6日の「東京レインボープライド2018」であいさつした立憲民主党の枝野幸男代表は「しっかりと差別解消法を今準備していますし、同性パートナーシップを認める法律の研究も進めています」と語っているので、立憲民主党として、または他の野党と協力して再度法案を取りまとめようという動きが出てくるかもしれません。

理解増進法案は、自民党の特命委員会ではまとまったものの、いまだ国会に提出するには至っていません。
同じ保守と言っても党内には様々な考え方の議員がいるわけですから、より多くの議員の理解を得て法案を提出するまでは、まだもう少し時間を要する可能性が高いです。

また、どの法案を実現していくのかという、党としての優先順位もあるでしょう。
いま、国会では働き方改革法案を進めることが一番であり、憲法改正の発議を優先したいという考えもあると思われます。

特命委員会が進めるアプローチ方法とは?

では、自民党の特命委員会が止まったままなのか、と言うとそうでもないようです。
特命委員会としては2つのアプローチで進めようとしています。
ひとつは、「理解増進法案」を進めること、もうひとつは現行法でできることを進めていくことです。

すでに2016年5月に菅官房長官に現行法でできる33項目の要望書(性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すための政府への要望)を提出しており、その進捗状況を各省庁に確認して実行できるよう促していくことを進めています。

これにより、既に実行されているものの一部をご紹介します。

人事院

人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)において、「性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動も含まれる」と明記されました。

厚生労働省

・男女雇用機会均等法のセクハラ規定に性的少数者に対するセクハラも対象になると明記されました。
・旅館業に関する衛生等管理要領を改正して「性的指向、性自認等を理由に宿泊を拒否することなく、適切に配慮すること」と明記されました。
他にも各府省庁での性的指向・性自認に関する研修が随時進められています。

混沌とした中で今後はどう進んでいくのか

性的少数者の人権に関する法律が成立するまでは、まだ少し時間を要するという現状はご理解いただけましたでしょうか。
いままで日本には存在しなかった法律を成立させるためには、より多くの国民の間に関心が広がることが必要だと思います。

今年2018年3月13日に、衆議院議員会館で「レインボー国会」という集会が開催されました。

なくそうSOGIハラ」実行委員会(一部の当事者とヒューマンライツウォッチとアムネスティ日本により結成)と「LGBTに関する課題を考える議員連盟」の共催によるこの集会には、超党派議連のメンバーを中心に10名強の議員が参加しました。
挨拶に立った議員は口々に「2020年までに法案の成立を目指す」と口にしていたので、近々何らかの動きがある可能性も考えられます。

これからどのような形で進展していくのか注目していきたいものです。

※本稿は、インクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2018」の掲載記事を加筆修正したものです。

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