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話題沸騰ドラマ「おっさんずラブ」最終回前に真剣に考えておきたい話

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2018年6月2日 17時00分 配信
引用元:Yahoo!ニュース

LGBTの間でも評判「おっさんずラブ」

ネット上で話題が沸騰しているテレビ朝日のドラマ「おっさんずラブ」が今夜最終回を迎える。
私の周りのLGBTの間でも全体的に評判が良い。

ゲイの漫画家、野原くろさんは、ツイッターで、「ね?男同士の恋愛ドラマ、おもしろいでしょ?』と、ちょっと嬉しい気持ち。…てか原作もないオリジナル脚本で、こんなおもしろいドラマ作られたら商売上がったりだよ!w」と書いている。

ゲイ寄りバイセクシュアルを自称する友人(40代 公務員)は、「同性愛をネタにした笑い狙いでもなく、変に強調することなく、かといって同性愛者にとって楽観すぎるというわけでもなく、ほどよいバランス」と評す。

またレズビアンの友人(40代 画家)は、「自分たち(セクマイの)が思ってること、気持ちをドラマの中のセリフで聞くのはエンパワメントされるなぁと思う」と語った。

しかし、一方で、「ノンケ(異性愛者)が、そんな風になびくわけない。非現実的」「性のあり方がよくわからない」というゲイの声も聞いた。

果たして、この中で表現されているセクシュアリティ(恋愛感情を含む性にかかわること)は、どう考えたらいいのだろうか。

彼は「同性愛に目覚めた」のか?

もともと「巨乳好き」を自称し、男性に惹かれることなどイメージもしていなかった「はるたん」こと春田創一(田中圭)は、上司(部長)である黒澤武蔵(吉田鋼太郎)や、本社からあたらしくやってきた後輩、牧凌太(林遣都)から恋心を抱かれアプローチを受ける。

黒澤の好意に気づくと、春田は黒澤が身体的に接近してくることにおののき、激しく動揺する。
また、仮住まい状態であることを知り、自分の家でルームシェアすることになった牧の突然のキスにも、強い拒絶を示す。

しかし、次第に牧に心惹かれていく自分に気づき、付き合いを求められ、戸惑いながらも承諾する。

それでもなお、これまで同性に恋愛感情を抱いたことのない春田は、自分は相手にとって彼氏なのか、彼女なのかと疑問に思う。
しかし、付き合いを続ける中で、春田は牧への思いを深めていく。

春田の牧への恋愛感情が深まっていることは、牧が別れを言い出した際に、泣きながら別れたくないことを告げるシーンで表現されている。

この春田の感情の変化をとらえて、「同性愛に目覚めた」と表現したり、あるいは「ゲイになった」と思ったりする視聴者もいるようだ。

しかし、大部分のゲイやレズビアンは、自分の同性に対する思いについては、「気づいた」と感じており、同性への思いを「目覚めた」「なった」という言葉を好ましく思わない人も少なくない。

また、これまで、指向性別*(恋愛感情や性的な欲望の対象となる性別)は変えられないということが、LGBTなどについての知識を広げる活動をしてきた人たちによって強調されてきた。
私も講演などでは「基本的に変化しない。また意志によって変えられるようなものではない」と説明している。

実際に、過去において様々な精神医学などの分野で、同性に対する指向性別を「治療」しようという試みがおこなわれてきたが、それはできないばかりか、本人の精神を破壊することにつながってきたことから、指向性別は「治療」できない、その必要もないということが国際的な共通認識となっている。

では、この春田の同性への恋愛感情を持つに至る変化は、単なるフィクションのファンタジーなのだろうか?
実は、必ずしもそうとも言えない。
私が、指向性別について語るときに、「<基本的に>変化しない」と表現しているのは、そのためだ。

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【*指向性別(指向する性別)】
一般的には性的指向と言われるが、「性的」という形容が、性行為だけをイメージさせてしまうこと。
また、性的指向という言葉に、性別以外の性質(相手の年代や体型等)への指向も想起する人が少なくないため、私は指向性別という言葉を提唱している。
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若者の半数は「異性愛者」ではない?

全くの異性愛者」ではない、と自分を意識する人が、18~24歳では49%にのぼるという調査結果が発表されたことがある。

2015年にイギリスで実施されたこの調査は、「全くの異性愛者」を0とし、「全くの同性愛者」を6とする7段階の尺度を用いて、自分がどこに位置するかを尋ねた。
この尺度は、1940年代に、米国の性科学者アルフレッド・キンゼーが考え出したもの。

全年代を合わせると、「全くの異性愛者」以外を選んだ人は23%だった。

年代が若いほど、「全くの異性愛者」を選んだ人は少なくなる。
この数字は、一見、同性への欲望を持つ人が増えたように見える。

しかし、おそらくそのような数字が出てきたのは、同性への恋愛感情や性的欲望を持つ自分を認められる人が増えたことが大きいのではないだろか。

もともと、キンゼーがこの尺度を考える背景には、多くの人間がバイセクシュアルであるという発想があった。

おっさんずラブ」で、結婚して妻と仲睦まじく暮らしてきた黒澤がひょんなきっかけで春田に恋する様子は、同性に対する欲望をどこかに持ちながらも、その感情に蓋をしてきたのではないかと思わせるものがある。

実際に、結婚して子どもを持つことが当たり前のことと思い、そうしてきたものの、子どもが就職し独り立ちしたのち、ふと自分の気持ちを見つめ直したときに、自分は同性の方が好きなのだと気付いたという人もいる。

そうして抑圧してきたものに気づくとき、その人の指向性別は変化したようにも見えるし、表出というレベルでは変化したとも言えるだろう。
しかし、それは、厳密な意味では「変化」とは言えない。

では、人の指向性別は変化しないのか。
そして、春田のセクシュアリティは?

セクシュアリティが流動する人

誤解のないように繰り返し強調しておきたいのだが、指向性別は意志では変化させられないし、基本的に変化しない。

しかし、ときに、柔軟なセクシュアリティを持つ人たちがおり、指向性別も変化する人たちがいる。
そのように指向性別の変化を経験する人を、英語で「fluid sexuality (流動的なセクシュアリティ)」という。

むしろ、春田は、これまで同性への欲望を抑圧してきたというよりも、この流動的なセクシュアリティを持つ人物のように見える。

流動的なセクシュアリティを持ちながらも、それまで同性との恋愛をイメージすることがなかったゆえに、「全くの異性愛者」として生きてきた。

そして、純粋に自分に思いを寄せ、また生活をともにする牧に心惹かれていくことになる。

こう書くと、これまで「全くの同性愛者」だった人が、異性に惹かれることも同じようにあると思われるかもしれない。
もちろん、その可能性はないとはいえない。
しかし、その可能性は、春田パターンよりもかなり低い。

なぜならば、自分を全くの同性愛者として意識する人は、生まれたときからずっと、異性愛が当たり前で、同性愛は好ましくないものとして否定される社会の中で、異性愛感情を持つことを押し付けられながらも、その感情を持たなかったからだ。
基本的に、さんざん、その感情を持つことを試した(頭の中でのシミュレーションとしても)結果である。

春田はバイセクシュアルか?

このドラマを観ながら、私は、指向性別を欲望、行動、アイデンティティの三つに分けて分析した米国の調査を思い出していた。

もう25年近く前に出されたものであるから、その数値自体はおそらく今は参考にならない。

しかし、その分析方法は、指向性別に関する複雑さを理解するのにとても重要だと思う。

男性の数字で解説すると、同性愛に関係する質問いずれに対してあると回答した人は全体の10.1%
円の中の数字はその中の割合である。

同性へ性的に惹かれる欲望があり、実際に同性と性行為の経験があり、同性愛者あるいはバイセクシュアルというアイデンティティのある人は、10.1%の中の24%

同性との性行為に魅力を感じながらも性行為の経験はなく、アイデンティティもない人は44%。

同性との性行為がありながらも、同性への欲望なく、アイデンティティもない人が22%。

アイデンティティがあるとだけ回答した人は2%。
あとは、それぞれの重なりとなっている。

つまり同性への欲望を感じる人がすべて同性と性行為をするわけではないし、同性と性行為のある人もすべてが同性愛者やバイセクシュアルというアイデンティティを持つわけではないということだ。
もちろん、異性愛も同じように分析することは可能だ。

この調査は、性行為に関して分析されているが、性的欲望を恋愛感情へ、性行為を「付き合う」といった関係性に置き換えて考えるなら、今回のドラマの春田のセクシュアリティは理解しやすい。

もともと、同性への恋愛感情を持っていなかったが、付き合うという行動が始まる(付き合い始めでは恋愛感情はさほど明確になっていない)、もちろん、アイデンティティはない。

だが、そのうちに恋愛的な欲望が生じてくる。よって付き合うという行動と恋愛的欲望の重なりに移行する。
それでもアイデンティティはない。

しかし、現実社会では、パートナーの選択という関係性には、往々にして社会の制度や規範、周囲の期待が影響を及ぼす。
日本では同性カップルは結婚できないし、まだ否定的にみる人も多い。
そんな中、結婚ができ社会的に認められる異性関係を選ぶ人もいる。

物語世界ならば、その現実社会で起きることとは、異なる選択が示されてもいいはずだ。
しかし、過去に話題になった同性カップルが主人公のドラマでは異性愛関係に回収されるものが多かった。

果たして今回はどのような結末となるだろうか。

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