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ハラスメント、LGBT…日本のジェンダー教育に奮闘

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2018年6月12日 配信
引用元:WOMAN ONLINE

大学時代、日本の地方でインターンとして働いていたんです。
その時、法科大学院(ロー・スクール)への合格を周囲に報告すると、喜んでくれると思いきや、『それは、結婚できないね』と真剣に心配されました。
今でも印象に残っていますね。
周りの日本人の皆さんはとても優しくて、思いやりがあったからこその反応だったとは思うのですが、複雑な気持ちになりました。

その8年後――カロリーナ・バン・ダ・メンスブルッゲさんは、ニューヨーク州の司法試験に合格し、国際法や人権法を強みとするジェンダーの専門家へとキャリアを築いていた。
そして昨年の9月、新たなプロジェクトを手掛けるべく、再び日本へ降り立った。

カロリーナさんはフェローとして、世界最大の人権団体であるアムネスティ・インターナショナルの日本支部で、ジェンダー教育プロジェクトに参画している。
特に、ジェンダーを高等教育で教える際のマニュアル作成に尽力しているという。

LGBTへの偏見や差別、セクハラがまだある日本で必要なのは

日本ではつい先日、勝間和代さんが自ら、LGBTアクティビストの増原裕子さんとの交際を公表し、「LGBTのカミングアウトには勇気がいる。それこそが、偏見や差別が残っている証しだ」とも語り、話題となった。
また、女性記者による財務省前事務次官のセクハラ告発では、ハラスメントに声を挙げる「#MeToo」が広がりをみせ、職場で起きているセクハラやその深刻な影響が共有されるようになった。

平等なジェンダー意識を持つことの解決策としてよく提示されるのが「若いうちからの教育」だ。
先月まとめられた、内閣府の男女共同参画会議の重点取り組み事項にも、「学校現場等におけるいわゆる『アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)』への対応」が盛り込まれ、無意識に男女の役割 に対する固定的な価値観を与える「アンコンシャス・バイアス」に対し て、特に学校現場において、その解消に向け た取り組みを進めるべきだと、提言された。
文部科学省でも男女共同参画社会やジェンダー平等を推進する重要性は議論され、特に教育プログラムについては、NPOセクターの役割が期待されている。
そのニーズに応える現場に、カロリーナさんはいる。

今は、作成中のジェンダー教育のマニュアルが、現場の高校で実際に使えるものかどうかテストするため、28歳以下の人を対象にワークショップを実施しています。
ジェンダーや性の考え方について安心して話せる場所を求めて、全国から参加者が集まってきています。

私自身は15年前、中高時代を日本で過ごしたが、「ジェンダー」という言葉すら聞いたことがなかった。
アメリカ留学時をきっかけにLGBTの友人や知人も増えたほか、自分が「女性はこうあるべき」と生き方や働き方について囚われてしまう背景には、自身のジェンダーに対する無意識なステレオタイプがあることも知った。
今は身近な問題として認識し、関連ニュースや研究を追っているものの、そもそも教育の現場で、ジェンダーについてどうやって語ればいいのか、カロリーナさんと話すまで想像もつかなかった。

ジェンダー教育での重要なポイントは、「ジェンダーは社会的に構成された概念である」と理解することだという。

「ジェンダーは社会的に構成された概念」だと知ること

例えば私たちが『女性だから』『男性だから』と特定の性別と結び付ける行動や好みというのは、決して生物学的に、もともと存在していたものではないですよね。
女性がピンク・男性が青、女性は家庭・男性は仕事、といったような考え方や感覚は、歴史の変遷の中で社会によって構成されたものだと説明します。
とはいえ、最初は参加者もピンとこないので、いろいろな国の挨拶を例に挙げます。

例えば、日本では会釈やお辞儀、アメリカではハグ、またフランスではキスをします。
日本で挨拶としてキスをしたら相手に驚かれるけど、フランスでは普通に受け入れられる。
つまり、絶対的な挨拶の仕方はなく、それぞれの国で長年にわたってつくられてきたマナーや礼儀なんです。
社会によって、何が『普通』なのか、が決められている。
こうした説明をすると、参加者たちはイメージが湧くようです。

このように、男性であること、女性であること、LGBTであることが、いかに社会に定義づけられているかを話し合うセクションは、参加者にも人気があるという。

セクションでは、それぞれのジェンダーに対するアイデンティティーのステレオタイプが狭い場合、それに適さない人がどう感じるかというテーマで議論したり、日本の広告に存在するジェンダーのステレオタイプを発見して広告からステレオタイプを取り除くという実践的な演習も行ったりする。

このような演習をすると、日々、日本で触れているメディアでは、女性が『主婦』、男性が『サラリーマン』で描かれている傾向が見えてくるんですね。
参加者たちは、今の自分の家族や友人の状況と比較し、広告をどう感じるか話し合ったり、広告に、LGBTの登場人物を入れるべきだという提案もしたり。

このような演習の目的は、社会における特定の立場や役割を批判することではなく、その立場や役割の捉え方を広げることです。
ジェンダーのステレオタイプがあまりにも狭いと、個人や社会の可能性を潰してしまう危険がありますから。

自分たちにもジェンダーのステレオタイプによる悩みはある

話し合いを進めていくと、参加者自身が持っているジェンダーのステレオタイプによる悩みを口にするケースも多いそうだ。

男性の多くは(若い人でも)、自分が稼ぎ主にならなければいけないプレッシャーを口にします。
また、女性参加者の中には、自分の母親のような専業主婦にならず、仕事を続けることを選んだら、親が選択したその当時の『あるべき姿』を批判するような気がして申し訳ない、と話す人も。
期待されているジェンダーの役割に当てはまらないと、周囲を落胆させるのではないか、という不安の声もよく聞きますね。

ワークショップではさらに、レズビアン・バイセクシャル・トランスジェンダーの人は、性別とアイデンティティーの理解を得られず、差別を受けやすいことも説明してみんなで考えていくのです。

ジェンダーを人権という視点から考えることも、教育において重要なポイントだ。

例えばワークショップでは、職場のハラスメントについて、何がハラスメントに当たるのかを挙げた上で、それに対応する国内の法律や国際法の基礎知識やハラスメントが起きやすい環境やポイントを共有して、実践的なケース・スタディーを実施するという。
このケース・スタディーでのシナリオは、例えばこんな設定だ。
職場で女性の部下が男性の上司からセクハラを受け、不快であることを本人に伝えたが、改善されなかった。
周囲に相談すると、社内の調和を乱していると上司と同僚から疎外され、結果的に辞めてしまった――。

このような具体的な事例をもとに、何がハラスメントなのか、周囲の反応はどうなのか、細かく分析する。
すると、ハラスメントが起きる力関係の構図や環境が具体的にイメージできて、効果的だとカロリーナさんは言う。

互いの経験を共有して、立ち止まり、自分の考え方を見つめ直す

このケース・スタディーをすると、参加者は男女問わず、被害者である女性の責任を問い、加害者の上司に寄り添う傾向があるんです。

女性側が不快であることを伝えきれていなかったのでは
上司は円滑に仕事を進めようとしているだけだからしょうがない』という意見も多く出ます。

一方で、自身も痴漢被害に遭って警察に助けを求めたら、服装が挑発的でなかったかなど、その当時の容姿について細かく説明を求められ、とても傷ついたという経験を共有する女性もいました。

このように、ケース・スタディーや互いの経験を共有することを通して、いったん立ち止まり、自分の考え方を見つめ直す機会は重要です。
ハラスメントについても、若いうちから包括的に、構造的な社会問題として考える視点を養う必要性があると感じています。

カロリーナさんは、ワークショップは、参加者に「問い」を持ってもらうことが目的の一つだという。
これまで言語化して考えたことのなかった問題や視点について、思考を深め、現状を「問う」きっかけの第一歩になる。

若いうちからジェンダーについて学ぶことで誰もが生きやすい社会をつくっていきたいという強い思いで、カロリーナさんはこの仕事を選んだ。

日本で、人権団体で働いていると言うと、ラジカルな人だと思われることもよくあります。
でも、ジェンダー教育においては、NPOセクターや人権団体だからこそ、提供できる貴重な知識や経験があります。
現場の教育者や教育委員会が、ジェンダーのカリキュラムを考えたいと思っても、ノウハウがないことや、日々の業務に追われていて、十分な時間が取れていないのが現状です。
そのような状況があるからこそ、文部科学省もNPOセクターによる教育プログラムの充実に、期待を寄せているのだと理解しています。

カロリーナさんは、ワークショップや現場の教育者や生徒からのフィードバックを重ね、ジェンダー教育の教員マニュアルの開発を進めている。
そのマニュアルが、文部科学省のガイドラインとどう連携しているか、白書を出す予定だという。