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「VRが偏見を想像力に変える」シルバーウッド下河原忠道社長が挑むVR x LGBTの狙い

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2018年7月17日 6時10分 配信
引用元:ビジネスIT

エンターテイメントの領域で注目を集めるVR。
これをダイバーシティ理解の観点で活かそうとしている企業がある。
シルバーウッドだ。
サービス付き高齢者住宅「銀木犀」の運営で知られ、テレビ東京の「カンブリア宮殿」でも特集された同社は、5月に代々木公園で開催されたLGBTの祭典「東京レインボープライド」でVRコンテンツ「LGBTxVR~レズビアンオフィス編~」を披露した。
同社 代表取締役の下河原忠道氏と同社 VR事業部の黒田麻衣子氏に、VRからダイバーシティ理解を深める取り組みの狙いと今後の展望を聞いた。

「ダイバーシティxVR」の第一歩は認知症の理解

――シルバーウッドさんが「ダイバーシティxVR」コンテンツの開発を始めた経緯を教えてください。

下河原氏:
まず、当社では「LGBTxVR~レズビアンオフィス編~」よりも前に、2017年に「VR認知症」というコンテンツを出していました。

我々はサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」を運営しています。
その経験から、認知症の方々が生活の中で日々感じることを、社会的なスケールで理解するためのツールが必要性だと感じていたのです。

――認知症の理解のためのVR活用は有効なのでしょうか?

下河原氏:
認知症のサポートというと、「認知症の人を真ん中に置いて、認知症ではない人たちが認知症の人をどうサポートするか」という話になることが多い。
つまり、「自分は健康な第三者で、認知症を患っている人を助けてあげる」という感覚に陥りやすいんです。
でも、それではうまくいかないんです。

認知症の人たちにとって世界はどう見えているのか。
普段どんな生きづらさを感じているかを理解することが必要です。

そこで有効なのがVRです。
VRは、実際に自分の身の回りにはない環境を体験することで、誰かに成り代われる技術です。
VRを通して「認知症のある人の不便」を体験し、肌で感じると、今まで見えていた景色とは違うものが見えてきます。

こうした体験の後に認知症の人と触れ合うと、「認知症ではない第三者の自分」ではなく、「認知症の不便さを(バーチャルに)体験した自分」として、認知症の人に向き合うことになるのです。

東京レインボープライドで公開した「LGBTxVR」コンテンツ

――LGBTxVRのコンテンツ開発に至った経緯を教えてください。

黒田氏:
専門学校の生徒向けにVR認知症の体験会をしたことがありました。
生徒さんの1人が、体験会が終わったあとに泣きながら下河原のところに駆け寄ってきてくれて。
それがトランスジェンダー(生まれの性別とは異なる性別を生きる人)の方だったんです。
VRで認知症を体験するプログラムに感動したので、トランスジェンダー版も作ってほしいと言われました。

そのときはまだVR認知症をローンチして間もないときで、ダイバーシティの文脈でVR事業を展開するとはまったく思っていませんでした。
でもそういう声をいただいて、いつか作れるといいなと思っていました。

そして、今年の東京レインボープライドではLGBTxVRコンテンツの「レズビアン~オフィス編~」をリリースすることができました。

このコンテンツはレズビアンの当事者の視点で朝家で起き、会社で働き、会社の後でパートナーとその同僚と飲みに行くというストーリーです。
日常生活に中でレズビアンの当事者がどんなところで生きづらさを感じるのかをまさに当事者視点で体験できます。
おそらく当事者ではない人たちにとっては、「あ、自分もこういう場面に出くわしたことある。もしかしたら誰か傷ついたのかな」と考えるきっかけになると思います。

――東京レインボープライドでの反応はどうでしたか。

黒田氏:
東京レインボープライドでは、開催2日間で600人くらいがコンテンツを体験しました。
自分では訴えかけたいものメッセージが作れたと思っていましたが、世間や当事者の人たちに受け入れられるのか、全然わからず、どきどきしていました。

私はレズビアンの当事者で、面接のときに社長にカミングアウトできるくらいの状況だったので、職場での生きづらさはそれほどありませんでした。
でも社長と話しているときに、自分の家族の話になって、泣いてしまったんです。
職場で生きづらくないからといって、その他の場面で生きづらくないということではないのだと気づいたんです。

私と違って、職場でカミングアウトしていない人はまだまだいます。
そうした人たちの職場での生きづらさ、社会や私生活での生きづらさを企業向け研修の文脈でどうやって伝えていくのか、悩みながらの開発でしたね。

下河原氏:
LGBTは隣にいて、多様性はすでに存在しています。
問題はインクルージョン(受け入れ)ができていないことです。
今後はゲイやトランスジェンダーなどのVRコンテンツも継続して作っていく予定です。

「共感」は見る人の感受性に左右される

――LGBT関連のコンテンツ製作における課題にはどんなものがあるのでしょうか。

黒田氏:
どれだけ共感できるかは見る人の感受性に左右される」ことですね。

下河原氏:
レズビアン~オフィス編~」を見た600人の感想では、「理解のある環境とそうでない環境の違いを感じられた」「(レズビアンの主人公である)鈴ちゃんと一緒に傷つくことができた」といった意見がたくさんありました。

ただ、企業向けの場合は、男性の比率も多いでしょうし、年配の方もいるでしょうから、「こういうこともあるんだ」くらいで終わってしまう可能性もあります。
状況を俯瞰するだけで終わらせずに、さらに一歩進んで能動的に、自分の頭で「どうしよう」と考えてもらえるような作品を作っていきたいです。

心地よくないコンテンツがもたらす「心理的拡張」

――ダイバーシティ理解のためのVRコンテンツでは、体験者は社会的に弱い立場に置かれている人たちの視点になります。体験内容は心地よいものにはならないと思います。

下河原氏:
それは重要なポイントです。
そこでカギを握るのが「心理的拡張」です。

心理的拡張とは、人それぞれの価値観やパラダイムからシフトして、他人の立場に立って物事を体験し、それまで自分が蓄積した経験を「拡張」することを指します。

わかりにくいかもしれませんが、「あの人からはそういうふうに見えていたのか」「あの人はそんなふうに感じていたのか」と思ったら、それが心理的拡張です。

VRで他人の視点に立つには2パターンあります。
1つは「自分より社会的に有利な存在になる」。
もう1つは「自分より社会的に不利な存在になる」。

前者の例は、スーパーマンになることです。
でも、この場合、あくまで自分という存在がいて、自分が強くなって嬉しいとか楽しいといった体験をすることになります。
これでも一応心理的拡張は起きますが、楽しかった、で終わってしまう。
拡張した経験が一瞬でシュリンクしてしまうんです。

一方後者は、今までとは違う自分の見方が経験に追加され拡張される。
さらに、心地よくない後味があるため、「楽しかった」の一言で拡張した経験がシュリンクしてしまうことはありません。
あえて心地よくないストーリーに入って、少し辛いけれど見に行ってみることによって、自分の中で広がりが生まれるという、心的作用を狙っています。

コンテンツづくりにおいては、ストーリー性がとても重要です。
認知症体験でもLGBT体験でも、嫌な体験だけで終わると、見終わったときに嫌な気持ちが残ってしまいます。
ストーリーの持っていき方、ポジティブな内容とネガティブな内容のバランスを間違えると、逆に偏見を助長してしまうことにもなりかねません。
前向きなディスカッションが生まれるコンテンツを意識しています。

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