LGBT

LGBTありのままで スタートアップが職場改革

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

2018年9月8日 6時30分 配信
引用元:日本経済新聞

異なる背景や価値観を持つ人々を受け入れる「ダイバーシティー」(多様性)社会。
女性やシニアの活躍に注目が集まるが、多様性はそれだけではない。
性的少数者や障害者が自らの経験を踏まえ、スタートアップ企業を興す動きが広がっている。
差別をなくすだけでなく、少数者に社会の活性化の担い手になってもらおうと、起業家は奔走している。

変わらないなら自分で変える

会話で『彼氏』や『彼女』と言っていませんか。『恋人』『パートナー』と言えば傷つく人が減ります」。
求人サイト運営のJobRainbow(ジョブレインボー、東京・中央)の星賢人社長(24)は毎月10回ほど、企業や役所、大学などで講演する。

2016年に設立した同社は、性的少数者「LGBT」向け求人サイトと企業の口コミサイトを運営する。

同性愛者のレズビアン(L)とゲイ(G)、バイセクシュアル(B)に、自分の性別が出生時の性別と異なると感じているトランスジェンダー(T)の求職者は、日本で毎年70万人いるとされる。
だが志願書の性別には、男性か女性の二者択一の場合が依然多い。

性のカミングアウトを人事部が受け入れて相談できるか、社内教育をしているかなど、LGBTに理解のある企業の求人情報をサイトで紹介している。
日本マイクロソフトやクラウド会計ソフトのフリー(東京・品川)など70社以上が現在登録しており、その登録料が主な収入源だ。

星社長はゲイで、これまでの経験が起業に至った。
自覚したのは中学生のとき。
男子校で同級生は女性アイドルの話で盛り上がるなか、自分は興味を抱かなかった。
ゲイじゃねえの」「いや違うよ」。
人前で自分を偽ることに苦しくなり、一時期、不登校になった。

自宅でオンラインゲームにのめり込み、全国大会で4位に上り詰めた。
ネットでゲーム仲間にカミングアウトすると、みんな受け入れてくれた。
自分が認められたことに自信がついた。性の問題で自分を否定する必要はないんだと

大学ではLGBTサークルを立ち上げ、理解しあえる仲間も増えた。
だが社会の壁に直面する。
心は女性なのに身体は男性の先輩が、就職活動ではネクタイとスーツを身につける。
耐えきれずに就職を断念する事態が相次いだ。
大学では自分らしく生きられても、社会では受け入れられない」。
憤りを覚えた。

大学院に進学し、LGBTとメディアの関係を学ぶ。
並行して活動していた学生団体やNPOの限界も感じるようになった。
継続した地道な取り組みが必要なのに、助成金に頼る運営は苦しい。

そのころビジネスコンテスに出場する機会を得た。
LGBTの人が自分らしくいられる場や就職サービスを提供したいと提案したところ、優勝、起業を決めた。

理念に共鳴する仲間も集まった。
ジョブレインボーには社員が4人、インターンが10人いる。
LGBTの人を直接支援したい」と話すのは営業担当の大嶋悠生さん(31)。
自身はトランスジェンダーで女性で生まれたが現在は戸籍も男性だ。

なでしこリーグのサッカー選手だった。
引退後に就職活動すると軒並み断られた。
ジョブレインボー主催のLGBT向け就職イベントに参加。
星社長と知り合い、支援する立場になろうと入社した。
今は、求人サイトへの登録を募るために企業をまわる日々だ。

星真梨子最高執行責任者(COO、28)は星社長の姉だ。
LGBTではないが昔から人権問題に関心があり、ロースクールに通いながら、フェミニズムについても学んでいた。
法律だけでは差別の壁を越えるのは難しい」と感じていたところ、弟から起業の話を聞いて参画を決めた。
現在はイベント開催時に主催者と事務手続きを担うなど、弟の社長を実務面で支えている。

利用者、月間8万人

求職と口コミの両サイトは現在、毎月約8万人が利用する。
この1年で10倍に増えた。
18~34歳が登録者の7割を占める。
エンジニア志望が目立つほかに、東京大学卒など高学歴の人も多い。
社会人が1日で最も長くいる職場で、LGBTの人が働きやすい環境をつくることは、企業の生産性を高めるはず」と星社長はみる。

サイト運営だけでなく、企業や役所へのLGBTの理解促進に向けたコンサルティングにも最近力を入れている。
大学の就職課担当者に会うと、LGBTの概念は知っていても、実際の対応で配慮が足りないことがあるそうだ。
LGBTの学生が意を決して相談した後、悪気がなくても就職課内で安易に情報共有すると、校内で広まるリスクが高まる。

人の能力を見たり、人生を選択したりする上で、性別が問われることは本来ほとんどないと思う。LGBTの人が就職だけでなく教育や結婚、介護などライフイベントごとに手助けできるプラットフォームを作りたい」。
理想を現実にすることで、社会は変わる。

■ ■ 記者の目 ■ ■

ダイバーシティーの定義は時代とともに変わってきた。
かつては女性や障害者の環境改善など「差別の解消」「個の尊重」が議論の中心だった。
だが世界の産業構造が変わり、ダイバーシティーは多様な価値観や能力を発揮できる環境が経済成長につながることを指すようになった。

経済産業省は6月、提言書「ダイバーシティ2.0の更なる深化に向けて」をまとめた。
企業の取締役会の多様化などを求める内容で、女性の活躍に主眼を置いている。
ただ、真の多様性とは、性差だけではなく年齢、人種、性的少数者、障害者など多岐にわたる。

経団連は昨年、多様性に関する報告書を作り、LGBTについて会員企業への調査結果をまとめた。
LGBTに取り組む理由として企業の81%が「多様性に基づくイノベーション創出・生産性向上」と答えた。

旧態依然の発想から抜け出せない「名門企業」が力を失い、新興企業のビジネスモデルが世界で広がっている。
人材の活用力の差が一因だ。
多様な人材を積極的に取り込めるか否かが、国や企業の盛衰を左右する。

(榊原健)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る