海外

日本ともアメリカとも違った韓国のLGBTイベント。儒教とキリスト教が根強い国で生きるLGBT

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2018年10月17日 配信
引用元:ハーバー・ビジネス・オンライン

韓国第2の都市である釜山市の海雲台地区で、昨年に引き続き2回目となるLGBTのイベント「釜山クィア・カルチャー・フェスティバル」が開催された。

近年、LGBTは世界的に広く認知されるようになり、各国で大規模なイベントやパレードが数多く行われている。
筆者も過去にアメリカや日本のプライドパレードなどを取材してきたが、韓国でのイベントは、日米のそれとは大きく違っていた。

韓国のLGBTイベントを包んでいた「物々しさ」の理由

台風25号の影響により1週間ほど遅れて開催された同イベント。
会場近くの滞在先を出ると、辺り一帯は黄色いベストを身にまとった多くの警察官で溢れていた。
近くにいた警察関係者にその数を聞いたところ、「約2000人」と返ってきたが、筆者の雑観としては3000人を超えていた。

異様な雰囲気が辺りを包み込む中、イベント会場になっている長さ500メートルほどの広場へ向かうと、その半分ほどのエリアに数え切れないほどのレインボーフラッグがはためいているのを見る。
入口を抜け、LGBT関連のブースが両サイドに建ち並ぶ会場の通りを、人や旗をかき分け写真を撮りながらゆっくり進み始めると、突然、屈強な男性ガードマンに呼び止められた。

写真を撮らないでください。

あなたの写真は撮っていない」と返答すると、ガードマンはこう続ける。

そうではなく、今撮っていた全ての動画・写真をこの場で消去してください。
ゴミ箱の中のデータも完全に消去してください。

日本やアメリカでのLGBTイベントを幾度となく取材してきた筆者にとって、その行き過ぎとも言える情報管理体勢は、今まで抱いたことのない大きな違和感だった。
身分を明かしてその理由を聞いてみると、「個人情報の保護」の他、こんな答えが返ってきた。

韓国にはLGBTに反対する人が非常に多く、SNSなどに顔が掲載されると、その一部の反対派に目を付けられることがあるんです。
過去に行われた国内のイベントでも、反対派の一部にパレードを妨害され、危険な目に遭った人もいる。

実際、こうして話を聞いている間にも、会場の外には、警察やスタッフに撮影した写真の削除を求められる人や、反対派がプラカードを掲げながら拡声器で怒号を飛ばしている姿があった。

その後、イベントの主催団体のブースへ赴きプレスパスを取ると、必ず顔にモザイク加工をするという条件で、周囲の写真撮影が許された。
会場内に戻り、参加者数名に韓国のLGBT事情を聞くと、彼らは皆「日本やアメリカのように、韓国にもたくさんのLGBTはいる。ゲイバーなどもあることはある。が、様々な理由から隠れて営業しているところも多い。家族や友達へのカミングアウトも、よほどの勇気と周りの協力がない限りできないし、そもそも日常において“本当の自分”をさらけ出せる雰囲気は、この国にはない」と口を揃えた。

残り半分のエリアで開かれていた反対派集会

イベント会場を出て広場の中心へと歩いていくと、見えてきたのは何重にも並び連なった警察の壁だ。
というのも、こうしてLGBTのイベントが開催される中、広場の残り半分のエリアでは、キリスト教団体をはじめとするLGBT反対派が「多様な性格は事実、多様なルックスも事実、多様な性は嘘」と書かれたプラカードを掲げ、同じように多くのブースを並べてイベントを行っていたのだ。
異常なまでの警察官の数と厳戒態勢の理由が、ようやく分かった。

先述した通り、昨今の世界的な広まりからすると、韓国でのLGBTの存在は、依然アンダーグラウンドであることが分かる。
その要因として考えられるのは、同性愛を認めない「キリスト教徒」の多さと、子孫を増やし親や家族を大事にすべきとする「儒教の教え」の存在だ。

これら国民性をも構築するほど深く根強い教えがある中、比較的新しい概念で存在するLGBTは、この国ではなかなか受け入れられない。
そのためか、反対派には中高年世代だけでなく、20代30代の若者が他国よりも多く、実際、今回の反対派のイベントを盛り上げていたスタッフや、LGBT側に怒号を浴びせていたのも、その多くが若者だった。

LGBTのイベントのほうは警備こそ物々しくとも、「」であったのに対し、反対派のそれは、どことなく「戦い」といった雰囲気があった。
一方、写真撮影においてはLGBT側のような制限はなく、むしろその活動を広めたいという心情が、筆者への声がけの多さからも感じられる。

そのうちの1人、50代前半とみられる女性キリスト教信者に捕まってみたところ、

彼らLGBTの人々は、AIDSを拡散させる。
子どもは男女でないと作れない。

という率直な、だが偏見に満ちた意見を強い口調で訴える。

もしあなたの子どもがLGBTだったらどうするか」という筆者の問いには、「祈ります」と返答。
また、「それでも私たちは、彼らLGBTの当事者や支持者を愛している。あの人達も、神様が作ったこの世で生きているのだから」と付け加えた。

両イベントが終了した後、混雑する某コーヒーチェーンの長机で原稿を書いていると、筆者を挟んだ左側には「レインボーフラッグ」、右側には「十字架のポスター」を携えた客が座っているのに気付く。

互いの存在に気付いているか否かは不明だが、いつかその存在を互いが理解できずとも尊重し合える時が来ればいいと、改めて思うに至った。

【橋本愛喜】
フリーライター。
大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。
大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。
日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。
滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。

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