トランスジェンダー

なぜトランプは「LGBT排除」にここまで注力するのか

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2018年11月6日 配信
引用元:現代ビジネス

「トランスジェンダー否定」の衝撃

10月21日、トランプ政権が、性別を狭く定義する方向で検討を進めていると、ニューヨークタイムズ紙が報じた。
その定義とは、「出生時の性器によって決定される生物学的で変更不可能なもの」というものだという。

この定義は、出生時に振り分けられた性別と異なる性別アイデンティティを持ち、その性別で生活している(していこうとする)トランスジェンダーの人たちの性別のあり様を政府としては認めないことを意味する。

この報道はすぐに反響を呼び、トランスジェンダーの人々と、その人権を守るために連帯する人々が、「#WontBeErased (私たちは消されない)」というハッシュタグを用いて、ツイッターなどのSNSで抗議する動きが起きた。
この抗議には歌手のレディー・ガガさんなどの有名人も参加し、国を越えて声があがっている。

報道の翌日、トランプ大統領は、報道の内容が事実であることを認め、「現在、多くの異なる考え方があり、トランスジェンダーの尊重に関して多くの異なることが生じている」と語った。

そして、大統領選挙運動中に述べた「LGBTのコミュニティを守る」という約束との関係について尋ねられると、「私は、皆を守る。私は、私たちの国を守りたい」と述べている。

だが、この性別の狭義化、固定化は、国際社会における性別に関する人権保護の流れに反すると同時に、米国内の具体的な政策で言えば、まず、オバマ政権下で進められた医療、学校などでのトランスジェンダーの人たちの権利を反故にするものである。

そして、トランプ政権下でトランスジェンダーを主なターゲットとしながら、LGBTを排除していく一連の流れの中にある。

米国保健福祉省はこう動いてきた

まず、この性別の狭義化へ向かう動きそのものが、トランプ大統領が就任後すぐに始まっていたと言える。

今回のニューヨークタイムズの記事は、独自に入手した記録に基づき、米国保健福祉省(the Department of Health and Human Services)が、タイトルナイン(Title IX)における性別の定義を法的に確立する急先鋒となっていることを指摘しており、性別の狭義化もその中に位置づけている。

タイトルナインとは、1972年に成立した、連邦政府から援助を受ける教育プログラムや活動で性別による差別を禁止した連邦公民権法である。

オバマ政権下で、トランスジェンダーの学生も、この法律に基づき保護されるというガイドラインが出されており、それにより、トランスジェンダーの学生が、生活している性別に合わせてトイレを使える後ろ盾となった。

ニューヨークタイムズが、トランスジェンダー排除を煽っていると報じた保健福祉省には、トランプ大統領が、公民権局長に指名したロジャー・セベリーノ氏がいる。

彼は、このポストに就任する前から、このガイドラインのことも含めて、LGBTの権利を否定する発言を繰り返しており、LGBTの権利運動を進める団体から「過激な反LGBT活動家」と言われている人物で、今回の動きにも絡んでいると目されている。

トランプ政権下がスタートして間も無く、LGBTに関する否定的な政策として表面化したものの一つとして、高齢者に対する調査などから、以前は含まれていた指向性別(性的指向)や性別アイデンティティに関する内容が削除された問題があるが、これらは、米国保健福祉省下で実施されてきたものであった。

そして、それと同様に、政権発足後、真っ先にLGBT関係で出された方針が、タイトルナインにトランスジェンダーの学生を含む前提としてつくられたオバマ政権下のガイドラインの撤回がある。

一見、恣意的にも見えるトランスジェンダーの人たちを抑圧する施策を繰り出しているようにも見えるが、調査統計からの排除やこのガイドラインの撤回から始めたのには、(当然ながら)周到な計算がある。

利用された「トイレ問題」

オバマ政権下でだされたガイドラインは、学生の性別移行をどのように扱っていくべきか、プライバシーをどう守るかといった、包括的なサポートを含んだ内容となっている。
しかし、世間的には、「トイレやロッカールーム使用の問題」に議論が集中してしまった。

トイレやロッカールームの問題」とは、出生時に割り当てられた性別と異なる性別として生活している人たちがどちらの性別向けのものを使うかということだが、これに関しては、誤解も多い。
それは、例えば、出生時の性別が男の人が男性的な性別表現だが、性別アイデンティティが女性なので女性用を使うといったものだ(※1)。

こうした誤解もあり、このガイドラインが発行されたときにも、米国では議論がわきおこった。
そして、出生時の性別、性別アイデンティティ、どちらを元に使うべきかという世論調査では、性別アイデンティティに合わせて使うことに対する反対はまだ根強い。
そして、民主党支持者と共和党支持者の差が大きく、共和党支持者の反対は圧倒的である。

つまり、トランプ政権は、まず、まだ世間で十分に理解されていないところから手をつけたということだ。
しかも、ガイドラインは法律ではないため、撤回もしやすい。

ちなみに、その後、出された軍隊へのトランスジェンダーの入隊禁止の方針については、CNNの調査によると、全体では圧倒的に反対が多いが(入隊認められるべき:73% 認められるべきではない22%)、共和党では、約半々である(入隊認められるべき:48% 認められるべきではない45%)。

おそらく、トランプ政権とそれを強く支持している人には、同性婚を認めた結婚の平等化を覆したいと考えている人たちも多いはずだが、連邦裁判所での判断が出た上に、世論調査でも、それを認める人たちが多く、その差は開く一方である(2018年のGallupの調査では、賛成67%、反対31%)。

長らく人工妊娠中絶と同性婚が、民主党と共和党の政策の対立軸となってきたように(そして、その中で、共和党が敗北してきたように)、今、トランスジェンダーの人権をめぐる問題が対立軸となりつつあるようにも見える。

LGBTがどんどん排除されていく

しかし、トランプ政権の野望はそれだけではないだろう。

先に挙げた調査からのLGBTに関する項目の削除は、他のトランスジェンダーに関する施策に比べると問題として小さく見え、実際に生活にすぐに影響がでるものではないため、大きな反対運動を起こしにくいが、重要な意味を持つものだ。

こうして調査の対象項目に入れることはその存在を認めることになり、それ以上に、健康や福祉に関連した施策を立てていく際に重要な役割を果たすことも多い。
そのため、LGBTの人権活動グループなどでは、そうした項目を入れるためにロビー活動を地道に長らくやってきた。

実は、2020年に実施される国勢調査では、LGBT関連の質問項目を入れる方向で準備が進んでもいた。
しかし、政権が変わったことで頓挫してしまった。

結局、最新の調査内容案には、婚姻の相手の性別を聞く質問は入っているものの、それでは結婚していない人たちのことはわからないゆえに不十分であるという声も出ている。

そしてさらに、すでに入っていた項目が消される事態も起きている。
これでは、ようやく見えるようになってきた存在が消されることになる。

今年の4月、民主党議員19人が連名で、保健福祉省のサイトからLGBTの健康に関する情報が、行政管理予算局のサイトからLGBTの人口調査に基づくデータが削除されていることに抗議しているが、こうした削除の動きはまだ進んでいきそうだ。

そして、これらの後退に抵抗し、LGBTに平等な権利が与えられることを求めたい人たちにとって、とてもやっかいなのは、トランプ大統領が二人の連邦最高裁判所判事を指名することに成功し、「保守派」と目される判事が過半数になったことだ。

そのため、連邦最高裁まで争いが持ち込まれた場合、トランプ政権の思惑通りの結果が出る可能性が高い。米国の最高裁判事は終身雇用であり、その判決の持つ力は絶大だ。

揺り戻しはどこまでいくのか

こうした変化を追うなかで、思い出すのは、米国の歴史学者ジョージ・チョンシーが『Gay New York(ゲイ・ニューヨーク)』で明らかにした研究結果である。

それによると、米国では、1969年の「ストンウォールインの反乱(※2)」をきっかけにしてゲイ解放運動が盛んになるまで、ゲイは孤独で、顕在化もしていなかったと思われているが、1920年代のニューヨークには、かなりオープンなゲイのコミュニティがあり、社会的にも目に見える存在になっていたというものだ。

しかし、1920年に禁酒法が施行され、1929年に世界大恐慌が始まるという社会情勢の変化の中で、次第に抑圧されていき、戦後そのようなオープンな生活があったことが忘れられていたという。

この変化は、社会が多様性に寛容で様々なライフスタイルにオープン時代が到来しても、その後も続くとは限らず、むしろ大きく揺り戻されることが起き得ることを示している。

もちろん、当時とは、顕在化している地域の広がり、受け入れられる度合い、同性婚をはじめとして制度化のされ方の違いを考えると、そのときのような揺り戻しは起きないだろう(また、今はゲイだけでなくLGBTという広がりもある)。

とはいえ、米国のLGBTにとって大きな揺り戻しの時代が始まっていることは確かでもある。
それがどれくらい米国社会全体で共有されているものなのか、今度の中間選挙や州知事選挙で示されることになる。

好むと好まざるとにかかわらず、米国の動きは世界の流れに強い影響を及ぼすことから、日本もけっして無関係ではない。

(※1)
ちなみに、ここで、性別アイデンティティという語が誤解を招いているという意見もあることに触れておきたい。
性別アイデンティティそのものは可視化されないもののため、先に挙げたような誤解が生じると指摘されることがある。
そのため、性別移行(必ずしも体の変更を意味しない)と、それによる性別表現に基づいた議論が必要とされる。

(※2)
「ストンウォールインの反乱」とは、ニューヨークにあったゲイバーへの警察の手入れに対する反発で起きた暴動である。
トランスジェンダーの人たちが、その口火を切ったと言われる。

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