トランスジェンダー

トランスジェンダーは「男子の部」「女子の部」?太田雄貴が考えるスポーツ業界でのLGBT

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2018年12月8日 11時30分 配信
引用元:Forbes

自身もトランスジェンダーで、今年15万人を動員した日本最大のLGBTプライドパレードを運営するNPO法人・東京レインボープライドの共同代表理事を務める杉山文野が、「いま、なぜダイバーシティが必要なのか?」をテーマに、第一線で活躍する人々と実体験を語りあう、対談連載。

第4回目のゲストは、日本フェンシング協会会長の太田雄貴。
北京オリンピック銀メダリスト、世界選手権金メダリストに輝いた太田は、31歳という異例の若さで同職に就任。
スポーツ業界の慣習にとらわれない改革を次々と打ち出している。

そんな太田がダイバーシティの観点から見るスポーツ界の様々な課題について語った。

スポーツ組織はビジネス業界より20年遅れている

杉山:
僕も昔は女性としてフェンシングをしていて、日本代表になったこともあります。
なので太田さんとも会場で顔を合わせていたんです。
引退後、久々に再会したら「女子の先輩が男になってた!」って言われましたよね(笑)。

太田:
杉山さんは女子なのに男女混合のクラブチームでキャプテンを務めていたのが印象的でした。
その後しばらくはご縁がなかったのですが、僕の妻が杉山さんの後輩だったんです。

杉山:
女子校の後輩ですね(笑)。
彼女とフェイスブックで繋がったら、共通の友人に太田さんの名前があって。
その辺りからまたよくご一緒するようになりましたね。

太田:
私自身はこれまでLGBTに大きく関わったことはなかったのですが、杉山さんと話しているうちに彼らも僕らと全く変わらないと実感しました。

杉山:
本日はよろしくお願いします。

太田:
よく「スポーツ組織は、ビジネス業界より20年遅れている」といわれます。
組織内での暴力沙汰が報道されるくらいだから、あながち間違いではないでしょう。

日本はようやくビジネス業界でLGBTを意識した活動が始まったくらいですが、スポーツ業界でもやらなければならないことはたくさんあります。

杉山:
リオではオリンピックとパラリンピック、合わせて60名以上のカミングアウトをしている代表選手が出場していましたが、そのうち日本人は0人でした。

カミングアウトをするということは、相手を信頼しているということでもあります。
これは対社会でも対個人でも同じで、裏を返せばカミングアウトする人が出てこないのは、信頼関係ができていないという意味でもあります。
カミングアウトすることで相手との関係性が壊れることに対する不安があるからです。

知り合いのメダリストかつLGBT当事者の方も、協会との軋轢や地域のヒーロー像を壊してしまうことを心配して、カミングアウトを躊躇していました。

太田:
私も、組織のメンバーから直接カミングアウトをされたことはありません。
フェンシング協会でLGBTに関する直接的な問題は起こっていませんが、悩んでいる方はたくさんいるはずです。

スポーツ業界が取り組まなければいけないことは、本当にたくさんある。
アスリートたちが気負わずロールモデルになれる環境づくりはもちろん、アスリートたちが実践できる支援活動も考えなければいけません。

トランスジェンダーは「男子の部」「女子の部」どちらに出場すべき?

杉山:
スポーツとLGBT」でよく話題になるのは、競技種目における男女の境目ですね。
トランスジェンダーの方は「男子の部」「女子の部」のどちらに出場すべきか難しいケースや、自身が望む性の競技に出場できないケースも少なくない。

太田:
見直したいとは思うのですが、どうしても身体面のギャップは存在しますよね。
やはり力などでは男性の方が優位なことが多いので、女性が男性の部に出ることはともかく、男性の体をもった人が女性の競技に出るのは卑怯だと言われかねない。
タイムやスコアだけではなく、心理的な面でもアンフェアな印象を与えてしまいます。

杉山:
2016年に五輪規定も改訂され、女性から男性へ性を移行したFTM(Female to Male)トランスジェンダーの選手はほぼ無条件で、男性から女性へ移行したMTF(Male to Female)トランスジェンダーの方はいくつかの条件を満たせば自身が望む性別での競技に出場できるようになりました。

まだFTMの選手が男性の部でメダルを取ったというのは聞いたことがありませんが、もしメダルを取るような候補が現れたら「男性ホルモンの摂取量が多いからフェアではないのではないか?」という議論も出てくるかもしれません。

義足の選手が早く走れなかった時代は健常者と同じフィールドで走るのは美談でしたが、健常者よりも早くなってきた昨今ではフェアではないという指摘が出てきたのと同じような感じです。

太田:
すぐに答えを出せる問題ではないですよね。
いっそ天下一武道会のように、あらゆる規制をなくしてはどうでしょう。

杉山:
なるほど(笑)。
性別や属性を制限しない種目は、たしかにアリかもしれないですね。
ある程度の男女差があるのは仕方がないのかもしれません。
ですが、そこにもう一つ、ジェンダーやセクシュアリティの関係しない選択肢もあれば、より多くの人に門戸を開けるはずです。

太田:
フェンシングはそういうことを実現しやすい競技だと思います。
だからこそ思想を練るだけではなく、会長として実際に行動して結果を残さなければならない。

たとえ男子の部・女子の部ではない「第三の部」をつくったとしても、そこに出場している人が差別的な目線を向けられたら意味がありません。

差別が起こらない仕組みをつくると同時に、LGBTに対する人々の理解を深める必要がある。
そのためには杉山さんのような当事者や、当事者に近い立場から発言できる僕たちが、当事者の方々が自信をもって過ごせる振る舞いを見せたいですね。

風通しの悪い組織が「無意識の差別」を生む

杉山:
僕がよく言っているのは、多くの差別は悪意からではなく、無意識の習慣から生まれるということです。

僕がフェンシング選手だった頃は、周囲から「おかま野郎」「男だろ」などと言われることも少なくありませんでした。
これは言っている本人からすれば「もっと頑張れ」程度の意味だったのかもしれません。

フェンシングに限らず、スポーツ業界の暴力的ともいえる無意識を、どうやって変えればいいのでしょう?

太田:
LGBT差別の対策に限ったことではありませんが、組織の風土を変えるには「人材の流動性」を高めるしかないと思っています。

組織でハラスメントが生まれる原因は、あるポストに同じ人がずっととどまって、アンバランスなまでに権力を握ってしまうことです。
それを防ぐためには、組織の風通しを良くするしかありません。

どうして風通しが悪くなるのかというと、組織のキャリアパスは基本的に一本道だからです。
スポーツ組織でいうと、良い選手がコーチになり、次に監督や強化本部に就き、その後会長や理事になることが多い。

しかし、名選手が必ずしも教え上手というわけではありません。
能力のある選手が年をとったという理由だけでコーチに就任してしまっては、本人にとっても教えられる人々にとっても不幸な結果を生みます。
一本道のキャリアや人材評価のせいで、適材適所の人材配置ができずに、才能を殺してしまうんです。

だからフェンシング協会では、それぞれのポストごとに必要な要素をしっかり要件定義し、外部を含めたあらゆる場所からそれを満たす人材を探します。

例えば、指導コーチなら「しっかり目標を立てて、選手とともに互いの目標をすり合わせ、そこまで選手を連れていくポスト」というようにです。

先日はビズリーチさんとタイアップして複業者限定で戦略マネージャーを募集しました。
すると、フェンシング経験がある人からの応募もありました。
もしかしたらその人も、杉山さんのように昔のフェンシング業界に不満があったのかもしれない。
そういう人が戻ってきたいと思える環境をつくれているのは、嬉しいことです。

杉山:
かもしれないですね。
僕はフェンシングは好きだったけど、セクシュアリティのこともあって自分の居場所が見つけられず、逃げるように引退してしまったので。
またこういった形で関われるのはとても嬉しいことです。
太田会長には大いに期待しています。

太田:
ホントかな(笑)。
あとはなるべくたくさんの人に得意な分野で戦ってもらうことですね。
日本の組織は、社員に苦手なことをやらせすぎです。

明日は対談の後編を公開。
子どもたちに必要なのは道徳の授業ではなく、早いうちからLGBTと接点を持つことだという。
太田が早速フェンシング協会での実施を検討した、施策とは。

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